江戸川乱歩の陰獣

劇場公開日:

解説

江戸川乱歩原作の『陰獣』の映画化。本格派推理小説家による殺人事件の謎ときを描く。脚本は「竹久夢二物語 恋する」の加藤泰と「憧憬 あこがれ」の仲倉重郎の共同、監督は「日本侠花伝」の加藤泰、撮影は「俺たちの時」の丸山恵司がそれぞれ担当。

1977年製作/118分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1977年6月18日

ストーリー

本格推理小説家の寒川に、彼のファンだと言って、さりげなく近づいて来た、うなじに赤いミミズ腫れのある人妻・小山田静子。彼女は寒川に、自分は変格派推理小説家で、初恋の相手でもあった大江春泥から脅迫されていると訴えた。寒川は自分が一番軽蔑している春泥の名をききこの事件に興味をいだく。脅迫状には、静子と夫の夜の秘事まで完ぺきな観察記録があり、闇にひそむ陰獣のような目に静子はおそれおののいていた。そして、物音がしたという小山田邸の天井裏を探ってみると誰かが這い回った跡があり飾りボタンが一つおちていた。寒川は春泥の足どりを追いかけた。そして、寒川の担当記者でただ一度だけ春泥と面識のある本田は、浅草でピエロ姿の春泥を見たといい出したが、全く彼の足どりはつかめず。静子に第二の脅迫状が届き、その予告通り、静子の夫、六郎が隅田川の船着場に溺死体で浮び上がった。六郎の通夜の席に顔を出したヘレン・クリスティに寒川はどうも腑に落ちなかった。そんなある日、ヘレンは寒川をホテルへ誘い、自分を鞭で打ってくれと懇願する。その時寒川はヘレンが天井裏で見つけた、ボタンと同じもののついた手袋を持っていることを知る。それは、六郎が英国出張中に二人で対で買ったもので、彼女が六郎の英国での情人であったのである。寒川は、このヘレンのマゾヒズムの喜びと、六郎の部屋にあった乗場鞭、そして静子のうなじのミミズ腫れを思い出し、静子を責めるだけでは満足できなくなった六郎が一連の脅迫犯人であり、あやまって死亡したものではないか、と推理した。しかし、納得ができない事があった。それは、本田が見た春泥は彼の本の奥付けについている写真とは違う人物なのだ。この頃、寒川と静子はとある土蔵を借りて、ただれるような愛欲の日夜を送る関係になっていた。ある日、歌舞伎役者の市川荒丸が殺された。そして、彼こそが自分が会った春泥だ、と本田は言った。また、小山田家の運転手が六郎からボタンが欠けたまま昨年十一月に貰ったという手袋が天井裏のものと同一であることが判明。春泥=六郎という寒川の推理は根底からくずれた。土蔵にもどると、そこでは静子が寒川にヘレンが彼に懇願した事と同じことを求めてきた。その時、寒川にひらめくものがあり、この一連の事件は変格派春泥が本格派の自分に対し探偵作家としての挑戦で二重三重に仕組んだ巧妙な完全なトリックであると。

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映画レビュー

3.5妖しき変格派で勝負!

2021年1月25日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

興奮

加藤泰監督1977年の作品。
時代劇や任侠モノが専売特許の加藤監督にとってこれまた珍しいジャンル。
推理ミステリー!
と言うのも…

時は『犬神家の一族』の大ヒットで空前のミステリーブーム。
東宝×角川×横溝×金田一の超鉄壁に、松竹は推理小説の先人・江戸川乱歩で対抗。
江戸川乱歩の世界と言ったら、幻想・怪奇。横溝の本格派に変格派で勝負。

人気本格派推理小説家の寒川は、最近人気の変格派推理小説家の春泥を軽蔑している。
ある日、自分のファンだと言ううなじにミミズ腫れのある麗しい婦人・静子と出会う。
彼女は脅されていた。脅迫相手は、春泥。元交際相手だった。
静子は寒川に助けを求め、寒川は静子に魅せられ、春泥の行方を追うが、遂に静子の実業家の夫が殺され…。

怪しさと、謎と、面白さの、昭和初期を舞台にした殺人ミステリー。
私はこれだけでもご飯三杯はイケる。
しかし、二転三転の犯人のトリックは確かに面白いが、何となくすぐ分かっちゃったのは致命的。
動機もちと弱かったかな。
謎解きも前半~中盤ゆったりして、後半性急。
悪くはなかったけど、確かに“本格派”というより“変格派”。

それを醸し出しているのが、この独特過ぎる雰囲気だろう。
カメラアングル、明暗の照明、レトロな美術、流麗と不穏な鏑木創の音楽…。
市川崑が横溝ミステリーの世界をおどろおどろしく描いたのなら、加藤監督も江戸川乱歩の幻想・怪奇な世界を異色に創り上げた。

横溝金田一との大きな違いは、こちらSMなどのエログロ要素。それが隠しメインと言っていいだろう。
横溝金田一にだってエログロ作品はある(例えば『悪魔の寵児』とか)。しかし当時金の成る木だった故か、映像化はメジャー作品だけ。
対抗案を全て請け負ったよう。

キャストでは静子役の香山美子の妖艶さがヤバい。圧倒的な存在感。
一応話的にはあおい輝彦演じる寒川が主役で頑張って推理しているんだけど、軽く消し飛んじゃうくらい。
クセのありそうなキャラを配置しながら、巧みに物語に絡ませ切れていないのも残念。珍しくコミカルな役所の若山富三郎とのバディをもっと見たかった。
にしても、あおい輝彦も若山富三郎も角川金田一映画に出てたね。

冒頭、寒川が言う。最近の流行りを断固軽蔑する、と。
寒川の格好は某探偵そっくり。
寒川の作品は近年、劇に映画に続々大人気。
実はかなり意識している…?
本格派の角川金田一が人気の時に、確かにこれはちと…。興行的には不発だったとか。
本サイトや各映画サイトでも微妙もしくは賛否両論。まあ、それも頷ける。
個人的には、最高ではなかったけど、妖しきミステリーの香りにそれなりに満足。
変格の中に、本格を作ろうという変格が感じられた。

さて、これにて昨年末から定期的に見ていた以前WOWOWで録り溜めしていた加藤泰監督特集は終了。
時代劇に任侠モノをメインに、ミュージカル、犯罪サスペンス、推理ミステリー…その娯楽手腕をたっぷり堪能。
でも、見たのはほんの一部。
またいずれ特集を!

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近大

3.5最後はもう一歩アクセルを踏んでも良かった

2019年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

乱歩原作の映像化というとだいたい予想がついたが、その通りな内容。タイトルからして大人しいわけがない。

作家役のあおい輝彦が謎解きしていく筋立て。独特な色調。凝ったアングル、極端なクローズアップなど、使えるテクを総動してこの世界を作る姿勢が素晴らしい。
だがこの映画で一番褒めなければいけないのは香山美子である。いやぁ凄い。和服姿で控えめに漂う色香。ここが決まらないと乱歩ワールドが成り立たない。そして徐々に体当たりな××××なのよ。

少々わかりにくい(説明不足)な所とかあるのだが、ラストで全て許しちゃう感じ。描写はさほど激しくはないが、日本独自の美意識、昭和テイスト、筋の通った変態描写、というのを堪能できますね。

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散歩男

3.0ピカレスク・ロマンかな

2016年9月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

興奮

金持ちの妻(香山美子)が主人公の推理小説家(あおい輝彦)を訪ねる。
脅迫状が来ていて、犯人は小説家の春泥だと思うので、証拠を見つけて欲しいと依頼される。
依頼者の首筋にミミズ腫れがあるのを見つけた主人公は、興味を持ち担当の編集者(若山富三郎)と調べ始める。
色っぽいけど独特の絵が異常性を表しているのかな。

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