「ダスティン・ホフマン主演の青春映画『卒業』(1967)にオマージュを捧げたラブロマンスなラストシーンにもほろり。 まさに劇場用のフルコース、ファンのためのお祭り映画で大満足でしたね。」うる星やつら オンリー・ユー 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
ダスティン・ホフマン主演の青春映画『卒業』(1967)にオマージュを捧げたラブロマンスなラストシーンにもほろり。 まさに劇場用のフルコース、ファンのためのお祭り映画で大満足でしたね。
新文芸坐×アニメスタイル vol.191『押井守映画祭2025』本日は《うる星やつら 編》。
押井守監督長編デビュー作『うる星やつら オンリー・ユー』(1983)、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)の豪華2本立て。
さらに上映前トークには押井守監督、アニメスタイル小黒祐一郎氏、そして諸星あたる役で、わたしが一番大好きなレジェンド声優、古川登志夫氏の登壇とこれ以上ない贅沢な上映イベント。
『うる星やつら オンリー・ユー』(1983年/89分)
劇場版アニメシリーズ第1作であり、押井守監督としても劇場長編デビュー作。
同時上映は相米慎二監督、河合美智子氏、永瀬正敏氏のデビュー作『ションベン・ライダー』。
公開当時小学3年生。
当時の脳内シェアは『うる星やつら』70%、『機動戦士ガンダム』30%でしたので、還暦過ぎた祖父を口説いて、渋谷東宝会館(現・SHIBUYA TSUTAYA)に観に行きました。
ストーリーは劇場用新キャラクター「エル」が6歳のあたると影ふみ遊びで負けたら結婚する約束を11年間一途に思い続け、約束の日が近づき、母星・エル星で挙式の準備が進むなか、ラムからあたるを奪取する。果たしてラムはあたるを取り戻せるのか…という内容。
TVシリーズ放送から1年半近く経ち、TVシリーズに登場した数多の個性的なキャラクターが一堂に会したオールスタームービーで、宇宙を舞台にした壮大なドタバタラブコメディ、『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』『宇宙戦艦ヤマト』を彷彿とさせるSFアクション、そしてマイク・ニコルズ監督、ダスティン・ホフマン主演の青春映画『卒業』(1967)にオマージュを捧げたラブロマンスなラストシーンにもほろりとさせられます。
まさに劇場用のフルコース、ファンのためのお祭り映画で大満足でしたね。
音楽も最先端のシンセサイザーを用いたBGMが新鮮で壮大な世界を見事表現、小林泉美氏歌唱の『I, I, You & 愛』、あがた森魚氏が参加していたヴァージンVSの『星空サイクリング』、平野文氏歌唱の『ラムのバラード』、詩織氏歌唱の『影ふみのワルツ』など名曲揃いで、音楽面はとても充実していました。
今回のトークでも押井守監督からは公開5ヶ月前に前任の監督が急遽降板、制作状況は「エル」のイラストと完成された脚本とコンテ数枚のなか、“シリーズを守るため”と説得され、職業監督に徹してTVシリーズと並行しながらなんとか期日を守って完成させたが「完全な失敗作・大きいテレビ」と語っていますが、当時小学生のわたしには作家性の強い「ビューティフル・ドリーマー」はまだまだ理解できず、単純明快な本作の方が好きでしたね。
公開後に宮崎駿監督との対談で「設定が甘い」など批評をされ、映画評論家からも『セーラー服と機関銃』(1981)を大ヒットさせ新進気鋭の新人監督として注目を集めていた相米慎二監督のまさに作家性全開の『ションベン・ライダー』と同時上映のため「サッカリン工場の爆発」と揶揄されたため、監督自身も本作を評価せず。
その反動で翌年の『ビューティフル・ドリーマー』では作家性をあますことなく徹底的に発揮、アニメ映画史に燦然と輝く金字塔を打ち立てましたが、今回のトークイベントでは、「もしも、自分の好きなように表現した『ビューティフル・ドリーマー』が監督デビューで、次回作が『オンリー・ユー』だったら、その後の自分のキャリアは全く違っただろう」「『オンリー・ユー』と『ビューティフル・ドリーマー』は2作品で1セット」というような本作を肯定するコメントも発せられて、『オンリー・ユー』好きのわたしには嬉しい兆しですね。
トークイベントはほぼほぼ押井監督の独壇場でしたが、その横で笑顔を絶やさず耳を傾ける古川登志夫氏が最高でした。

