「若き日の奥田瑛ニさんと渡辺謙さんが狂気の医学生を演じる」海と毒薬 山川夏子さんの映画レビュー(感想・評価)
若き日の奥田瑛ニさんと渡辺謙さんが狂気の医学生を演じる
遠藤周作著の小説『海と毒薬』は中高生の頃、父から「お前にはまだ早い」と読むのを控えさせられていた作品でした。
以来、何十年も興味を持たないようにして来た作品で、今回、渡辺謙さんの若い頃の作品で映画があるというので、齢50を過ぎて初めて映画で「海と毒薬」のストーリーを知りました。
ショッキングな内容で、亡き父が高校生の私に読ませたくないと考えたのも納得しました。
戦争中に九州大学医学部の病院で実際に行われた米軍捕虜生体解剖事件の話で、人道的に問題のある、日ごろは理性や良心で抑えられている人間の蛮性を「戦争」が解放して、常軌を逸した行動を「正義」だと考えるようになる人間の思考の偏向の恐ろしさを、淡々と描いた描いた作品でした。
チスの人体実験のようなことをやっていたされる731部隊があったことが記録や証言によって明らかになっていますが、戦後日本でヒットした小説の内容がこれかあ…と軽くショックを受けました。昭和を生きた戦中派の皆さんにとっては、「戦時下の狂暴な思考」は他人事ではなく、身近な狂気として、冷静に受け止めていたのかなと思いました。
映画としては、若い頃の渡辺謙さんと奥田瑛二さんが戦時中の医大生で出演されており、金妻に出る前の奥田さん、独眼竜政宗に出る前の渡辺謙さんの、20~30代のお二人の演技が見もので、タイムトラベルをしたような変な感覚があって、渡辺さんはサイコパスな軍部の考えに違和感なく染まっていく医学生を、奥田さんは米軍捕虜の生体解剖に否定的な考えを持ち、良心の呵責に苦しむ医学生をそれぞれ演じておられて、怖いやら苦しいやら。
オールモノクロで、撮影場所も当時はまだ戦前の建物や景色が日本に残っていたんでしょうね、本当に戦前の映画を、「君の名は」や「また逢う日まで」の時代の映画を観ているようで、よく知った俳優さんたちが亡霊のようにみえたり、悪夢を見ているような感じでした。戦争がない時代に生まれて、戦争をしないと宣言した国に生まれてよかったです。
