劇場公開日 1965年2月28日

「小説の筋をかなり忠実に映画化しているのみで、映画としての独自の価値を追求した作品とは至っていないのが残念でした」美しさと哀しみと(1965) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5小説の筋をかなり忠実に映画化しているのみで、映画としての独自の価値を追求した作品とは至っていないのが残念でした

2021年10月22日
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鑑賞方法:DVD/BD

文豪、ノーベル文学賞作家の川端康成の原作
1961年から1963年にかけて婦人公論に連載され、1964年に全集に収録、1965年2月20日に単行本として刊行されたもの

本作は1965年2月28日公開
だから今でいうメディアミックス戦略だったのかも知れません

松竹の川端康成の原作による映画は戦後では5本
1963年 古都
1965年 美しさと哀しみと(本作)
1965年 雪国
1966年 女のみづうみ
1968年 眠れる美女

人気作品の「伊豆の踊り子」は日活と東宝版しか有りません
特に1963年の吉永小百合主演の日活版、1974年の山口百恵主演の東宝版が有名です
松竹も本当ならば本作より「伊豆の踊り子」を映画化すべきだったと思います
しかし、当時最高の人気女優の吉永小百合の日活版がヒットしているので、回避して「雪国」を選択したと思います
本作は原作が初刊行されるので、企画が別途持ち上がったかと思われます
まあ、「古都」と本作は川端康成が同時平行して執筆した作品なので、映画もそれと同じように平行して公開したという趣向なのかも?

内容は、良く言えば「美しさと哀しみに満ちた人生の抒情と官能のロマネスク物語」
川端康成本人の事のことを書いているようで、実はかなり空想と誇張で脚色した小説です
お話は、実のところかなりゲスいものです
こういう作家が実在したら現代ならネットで炎上間違いなしで、下手をすると作家生命も危ういでしょう

映画としては、あまり成功しているとは言えません
篠田正浩監督作品なので期待したのですが、それ程エキセントリックな演出もありません
八千草薫のエロシーンも控えめです
お話の内容だけで、当時は十分にエキセントリックだったのだと思います

八千草薫の演じた音子が描く絵画を、エロスの作家として知られる池田満寿夫の作品を使用していることはなかなかの選択です
でも八千草薫には似合ってません
彼女には日本画の雰囲気しかまとっていないのです

「古都」を踏襲した武満徹の音楽も、本作ではさほど効果が上がっていません

ただ、加賀まりこは、川端康成が誉めたほど、コケティッシュで小悪魔的で良かったと思います

やはり全体の印象としては、小説の筋をかなり忠実に映画化しているのみで、映画としての独自の価値を追求した作品とは至っていないのが残念でした

劇中冒頭に主人公が泊まるホテルは、蹴上にある都ホテルです
本作の翌年にウェスティンホテルズと業務提携して、2002年からウェスティン都ホテル京都と名称も変わりました
正に京都の迎賓館と言うべき最高級ホテルです

因みにに京都駅南側すぐに新幹線から見える都ホテルは1975年の建設で公開当時はまだありません
こちらはどちらかというとビジネスホテル風です
つい最近売却されたようです

劇中終盤に登場する琵琶湖ホテルも実在します
1934年開業、ヘレン・ケラーやジョン・ウェインもかって泊まった格式のある国際観光ホテルでした
戦後は1957年まで米軍専用ホテルとなっていました

蹴上の都ホテルが京都の迎賓館なら、こちらは京都の奥座敷のようなところです

今は、場所も浜大津に移転して近代的なビルに建て替えられいます
しかしグレードの高い、そこに居るだけで気分が高揚するホテルの雰囲気は変わらないようです

客室には、かっての瓦屋根のある東京九段の靖国会館みたいな和風の近代な建物の白黒写真が飾ってありました
その横に小さく旧ホテルの歴史を和文と英文で誇らしげに書き添えてあるのを読み、現代にまで続く伝統を知りました

大津市の琵琶湖西岸にある柳が崎湖畔公園はその跡地です
旧ホテルは、「びわ湖大津館」となってレストランもある文化施設といて公開されています

ひと昔前、大阪道頓堀のとあるバーで77歳の素敵なマダムとお話する事があり、旧琵琶湖ホテルに、早朝急に思い立って芦屋のご自宅からわざわざ朝食を食べに行かれたという優雅なエピソードを伺ったことを思い出しました
久方ぶりだったのに支配人が顔を覚えていてくれていて、朝日に湖水がきらめくのが一番よく見える良い席に案内してくれたそうです
きっと本作の時代の少しあとの事だと思います

その77歳のマダムも本作の頃は加賀まりこが演じたけい子のような女性だったのでしょう

移転後の今の新しい現代的な琵琶湖ホテルの朝食も素敵でしたが、昔の時代はいま以上にもっと海外のような風情だったのでしょう

お近くに起こしなら是非お泊まりになってみてください
京都へはすぐですから

あき240