浮草のレビュー・感想・評価
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小道具が気になる
二度目の鑑賞。
やはり小津安二郎の作品は何度見ても面白いし、観るたびに新しい発見がある。
冒頭に一座が到着する港の灯台と、堤防の上に置いてある黒い一升瓶が意味ありげに映される。そのあとに映る赤い郵便受けが、川口浩扮する息子の象徴であることは映画がすすむにつれて明らかになる。だから白い灯台と黒い一升瓶も登場人物を象徴しているはずなのだ。
そのように意識して観ていると、実は杉村春子が中村鴈治郎の為に酒をつけているシーンに、黒い一升瓶が映っている。そうなると、白い灯台が誰を指すのかも自然と決定されるのだ。
もう一つ、その色が印象的なものが映画にはたびたび登場する。それは、杉村の家の裏庭に咲く赤い花である。この花はおそらく京マチ子を指すのではないか。京が杉村の店へやってくるときに持っていた傘の色も赤い。
杉村に出された酒を飲む中村の背後には絶えずこの赤い花が映っている。このことで、中村がしばしの家庭の雰囲気を味わいつつも、現在のパートナーである京の存在から離れることはできないことが示される。
川口は自分の父親が中村であることを知らない。旅から旅の浮草稼業の身を恥じて、中村は自分こそが父であることを告げない。そして、息子は自分の住む世界とは別の「堅気」の世界に生きて欲しいと願う。
この父の息子への感情は「ニューシネマパラダイス」のアルフレドのトトに対する思いと同じだ。時代の転換期に生きる父親の、悲しくも潔い姿を体現している。
雨の中の痴話喧嘩
こういう小津映画は大好きで、宮川一夫・撮影で、京マチ子で鴈治郎で杉村春子で、何にもわかってないぽーっとした若尾文子ときたら最高でない訳がない!
雨の中の軒下で吠える京マチ子、上から見下ろす映像で本当に美しい。雨と激しい雨音と彼女の濡れて乱れた髪と着物と背景の戸の全てが悔しさで喋りまくる女の小道具になっている。小股の切れ上がった京マチ子の女っぷりと優しさには感動を覚える。現実にこういう女性は居ないのか居るのかそんなことは超越している。ただ見る人がこういう女だなど感じそれで、もうそういう女は居ることになる。雁治郎の飄々とした動きと目つきと色気は可愛さに繋がっていて目が離せない。
この鴈治郎の曾孫の壱太郎くん(31才)、美しく演技も踊りも上手い若手の女形。すでに素晴らしいのでこれからどうなるのかあまりにも楽しみ。彼がもうちょっと大人になってから京マチ子さんのこの役を演じたらいいなあ。(2022.8.16.)
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