「変しい変しい私の変人」青い山脈(1963) 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)
変しい変しい私の変人
8月11日は山の日
山に因んでタイトルに山がつく作品を観ることにした
鑑賞方法はU-NEXT
『マークスの山』『八甲田山』『傷だらけの山河』『山田村ワルツ』『山田ババアに花束を』など次々に候補は浮かんだがまだ未鑑賞の名作を思い出した
それが『青い山脈』
この作品は映画だけでも49年57年63年75年88年と5回も制作されている
テレビドラマは62年66年74年の3回
なんといっても観る前から古めかしい印象
作中の人物と年が近かった88年の時点で今まで一度も観たこともないのに今更感はあった
そのためか88年を最後に一度も映像化はされていない
この作品の原作は日本国憲法が制定された翌月から朝日新聞で連載開始された新聞小説で新憲法の精神を学園ドラマの形で描いた青春コメディーである
メディアは今でもなにかといえば戦争を振り返るのにも関わらず『青い山脈』は賞味期限が過ぎたのか
保守系知識人西尾幹二は作品発表から半世紀が経ち役割を終えたという
そうかもしれない
古い体制は今となっては戦後自由民主主義であり現代の新たな自由民主主義との対立が生まれた背景があるのかもしれない
それでも88年を最後におよそ35年もリメイクされないのは流石に淋しいものだ
ネット社会なりの青い山脈があっても良いんじゃないか
とはいえ安倍晋三元総理の国葬で対立する今の世相を忖度無しでありのまま事細かに描いたらとてもじゃないがやばすぎる
今やるなら転生ものか
原作未読
原作は石坂洋次郎
この本を読み若い頃の大島渚も感銘を受けたらしい
監督は脚本は『伊豆の踊子(1963)』『伊豆の踊子(1974)』『スパルタの海』『生徒諸君!』『一杯のかけそば』の西河克己
脚本は他に『伊豆の踊子(1949)』『伊豆の踊子(1957)』『江分利満氏の優雅な生活』の井手俊郎
原作の舞台は原作者が教員を務めた弘前市がモデルらしいが1946年のロケ地は静岡で今回の作品は滋賀
PTAの役員が『〜まんねん』なので違和感を感じたがそれもそのはず滋賀は近畿地方で冒頭の城は箱根城
本来なら49年ものを観るべきだが前編後編合わせて3時間なのでコンパクトで評価が高い今回の作品をまず選んだ
非暴力を謳った49年に比べ今作は60年代初め当時の今風にアレンジしている形となっている
今風(1963)の考え方の新子と担任の島崎先生VS封建的で古い考え方のクラスメートや大人たちの対立をユーモラスに描いた傑作
2人とも東京から移り住んだ余所者で対立する古くからの地元民というのがミソ
結局数々のいざこざもなんやかんやでPTA会議の話し合いと投票で解決するという民主主義のお手本
エロティックバイオレンス映画のような展開にはならない
芸者梅太郎と町医者沼田のやりとりが特に面白い
夜中の野外で赤牛の子分3人が沼田を襲撃するシーンがあるが殴る蹴るがあきらかに偽りでいくら芝居とはいえ下手糞で当たりが弱すぎる
殺人のシーンは本当に殺すわけじゃないんだから濡れ場で本番までする必要はないと主張する市民活動家の言葉を借りれば本当に暴力を振るう必要は無いがそれにしたって興醒めした
教学の他校から転校して来た養鶏業の娘・寺沢新子に吉永小百合
両親が外泊中に金谷商店の店番をしている浪人生・金谷六助に浜田光夫
貞淑女子学院高校の教師・島崎雪子に芦川いづみ
芸者の妹で寺沢の高校の後輩・笹井和子に田代みどり
金谷の母校の後輩でラグビー部の富永安吉に高橋英樹
富永の子分・吉村に高島稔
新子のクラスメートで彼女と対立するグループのリーダーで貞淑女子学院高校の伝統を重んじる松山浅子に進千賀子
貞淑女子学院高校の若手体育教師の田中に藤村有弘
島崎に渡したつもりの田中のラブレターを誤って受け取る形となった貞淑女子学院高校のベテラン教師・白木に北林谷栄
PTA会議で偽装ラブレターを読み上げる貞淑女子学院高校のベテラン教師・岡本に井上昭文
PTA役員の長森老人に左卜全
武田校長に下元勉
八代教頭に織田政雄
元裁判官で養鶏業を営む新子の父・寺沢修蔵に清水将夫
新子の弟・寺沢栄一に小沢茂美
PTA会長で市議会議員の赤牛こと井口甚蔵に三島雅夫
笹井和代の姉で芸者の梅太郎に南田洋子
芸者で梅太郎の妹分・駒子に松尾嘉代
地元の開業医で貞淑女子学院高校の校医を兼務する沼田玉雄に二谷英明
因みに映画comの今作のキャスト紹介は一部間違いがあるので修正を求めたい