「無法松を知らない世代には難しいかも・・。」オリヲン座からの招待状 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
無法松を知らない世代には難しいかも・・。
回想シーンから始まりますが招待状の二人は主人公の人柄を描く為のサイドストーリーです。
留吉(加瀬亮)は17歳のホームレス、松蔵(宇崎竜童)、トヨ(宮沢りえ)の営む京都の映画館に拾われた使用人、彼もまた無法松の松五郎なのである。オリジナルの阪東妻三郎作品は劇中で語られるよう、「やくざ者が軍人の未亡人に愛の告白などけしからん」と告白シーンがカットされ、戦後に日の目を見ます。後の三船敏郎版では胸に秘めていた方が感動的との判断から告白場面は無くなっています。松蔵が留吉に阪妻の無法松を語ったのも、写真を撮ったり、帽子を被せたのも自身の病状を察してのこと、留吉に後を託したかったからでしょう。トヨは察していて、もう一枚の写真を隠しました。蚊帳の蛍のシーンは意味深ですが、トヨの最期になって留吉は告白します。
どうとでもとれるような三枝健起監督の印象派のようなぼかした演出は好き嫌いが分かれるところでしょう。
映画館が舞台なので映画人が張り切ったかと思いきや殆どがテレビ畑出身の人が作ったのは意外でした。昔の映写機が良く残っていたものです、光源はアーク放電で溶接の火花ようなものですから光量を調整するのも映写技師のこつを要しました。フィルムも高いですから複数の映画館で使い回し、昔のフィルムはよく切れ、溶剤で繋ぐのも手間、時間通りにはいきません、フィルム運びも大変、まさに自転車操業です。一巻で10分足らずですから映写機2台で乗り換えながらの上映はたいへんでのんびり観ているひまは無かったでしょう。昭和30年代は映画の全盛期、テレビは銭湯15円の時代に30万円の贅沢品でしたから庶民の娯楽は映画でした。本作の良いところは浅田文学の持ち味は勿論ですが、ちょっと痩せすぎで色気が薄いのがプラトニックラブストーリーには幸い、想いを寄せたり風評が立ったりするには十分な説得力の美形な宮沢りえさんの起用が大きいでしょう。昭和のノスタルジーと片想いを淡々と描いた名作ですが、若い方には分かってもらえないかもしれませんね・・。