「単なる恐怖映画と思えなかれ。離婚しかけている夫婦が、究極の恐怖を共有し合うことで、絆を取り戻すことを描いた作品。でも抜群に恐かった!」30デイズ・ナイト 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
単なる恐怖映画と思えなかれ。離婚しかけている夫婦が、究極の恐怖を共有し合うことで、絆を取り戻すことを描いた作品。でも抜群に恐かった!
『死霊のはらわた』などホラー作品の第一人者であるサム・ライミが手がけた作品だけに、恐怖感はピカイチ。けれども単なる怖さだけでなく、これまでにないヴァンパイア像を作り込むだけでなく、夫婦愛を導入。なんとラストで感動して涙してしまう、新たなホラーの新機軸を立ち上げた作品です。
主演のジョシュは、「自然な恐怖が内なる感情を呼び覚まして、生きる力を呼び覚ますんだ。」と語っています。つまり本作は観客に恐怖心を与えるのが目的でなく、エバンとステラの離婚しかけている夫婦が、究極の恐怖を共有し合うことで、絆を取り戻すことを描いた作品なのです。
スプラッタ作品への出演を好まないジョシュは、「叙情的で強烈なビジュアル・メッセージで語りかける」という意味で、本作を評価し、他の恐怖映画と全く異なる作品として位置づけています。
ぱっと見てジョシュは、恐怖映画向きの俳優ではないと思います。むしろ恋愛映画の主役を張ってもおかしくない甘いマスクの彼のキャラが本作にマッチしていたのではないでしょうか。
ヴァンパイアの頭をバシバシ切り倒していくような無敵なヒーローよりも、不完全な主人公の方が、身近に感じられます。そんなエバンが苦難を乗り越えて、ステラの信頼を取り戻す方が、二人の絆に感情を移入しやすくなるというものです。
でも監督は意地悪だから、ハッピーエンドというわけには行きませんでした。詳しくは本編で。
ジョシュが語る本作の恐怖感というのはハンパではありません。
舞台となるアラスカのバロウという街は、隣の街まで128キロも離れていて、もし通信手段や移動手段を断たれてしまっては、完全な逃げ場なしの密室となってしまいます。加えて、30日続く太陽が昇らない極夜の闇と雪に閉ざされた凍てつく寂廖感に満ちた世界が一層の恐怖感を煽るのです。
こんな静かな舞台に押し込められたら、チョットした物音でも反応してしまいます。事実、その物音により、街の人がひとりまた一人と惨殺されていくのです。原因も分からぬままに。
そして満を持して登場するヴァンパイヤは、これまでのヴァンパイヤ・ムービーのイメージを大きく革新していました。まずとがった牙はなく、ジョーズのようなくさび形の歯でがぶりと食らい付くのです。
そしてスパイダーマンのような軽い身のこなしと高速移動が可能な身体能力を使って、街の人々を次々と狩っていきます。
頭脳も狡賢くて、わざと人間を殺さず、囮に使って誘き寄せるなど侮れません。
特にヴァンパイヤのリーダー役を演じているダニー・ヒューストンは不気味でしたね。
こんな最凶のヴァンパイヤに、挑むエバン達生き残った街の人々の苦難は、大変なのものでした。ヴァンパイヤに噛まれるとヴァンパイヤの仲間になってしまいます。
そのため断腸の思いで、仲間を殺さなくてはいけなくなったシーンがきつかったです。それと襲ってきた少女の首を切り落とすところも。
ただ本作には不可解なところもあります。
ヴァンパイヤには、太陽の光を浴びると灰になるという弱点はいいとして、では彼らがどういう風に誕生して、人間狩りのためにやってきたかという謎は残りました。白夜が明けると消失してしまうなら、ついつい始まりの方も気になるわけです。
スプラッターシーンも満載で、恐怖からずっと緊張を強いられる作品ではありますが、ラストの感動も捨てがたい!
さて、あなた様は、恐怖を乗り越えてでも、ラストの感動までたどり着くことができるでしょうか?