劇場公開日 2007年11月23日

「今年の邦画の最高傑作」ミッドナイト イーグル 勝手な評論家さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0今年の邦画の最高傑作

2007年11月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

心の傷ついた戦場カメラマン西崎優二(大沢たかお)が冬の北アルプスに篭っている目の前に、ナゾの光る物体が墜落した。その落ちた光る物体は、特殊爆弾を搭載したアメリカのステルス爆撃機B-5”MIDNIGHT EAGLE”。ナゾの光を追い、西崎と西崎の後輩落合信一郎(玉木宏)は吹雪の北アルプスに登るが、その吹雪の中では、特殊爆弾をめぐり、自衛隊とナゾの武装集団の攻防が始められようとしていた・・・。

日本のサスペンス史に残る壮大なスケールの映画です。実は、結構前に原作も読んだことがあります。細かいことは忘れてしまいましたが、原作では慶子は別居している妻であるのに対し、映画では死んだ妻の妹だったり、最後の処理方法の提案人が違ったり、最後に一緒に居る自衛官の名前と階級が違ったりしていますが、大筋は原作と合っていて、結構きちんと映画化されたと思います。”日本のサスペンス史に残る”というのも冗談ではないですね。これまでのちゃちい映画ではなく、きちんとした映画として作り上げられています。日本の映画も、2005年に福井晴敏の『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』などが映画化されてから、変わってきましたね。このことは、正しく評価するべきですね。

西崎は、戦場で、目の前に居た少年が爆撃で命を落としたのを見て、心が折れてしまったと言う設定のようですが、なんか、もう少し強烈なことがあったほうが良かったような気もします。あれで、心が折れるのか?

竹内結子演じる、西崎の義妹有沢慶子は、写真週刊誌の記者という設定ですが、これは偏見かもしれませんが、あんなにきちんとした格好の写真週刊誌の記者って言うのはどうなんでしょう? それにしても彼女、憂いを湛えた表情が上手いと言うか、何と言うか。良い女優さんだと思います。

総理大臣の渡良瀬隆文は藤竜也が演じていますが、ちょっと微妙な演技。これが、小泉元総理の頃だったら、彼の風貌に似せた感じにする(2006年の『日本沈没』)んでしょうが、そう言う感じではなく、風貌は普通でした。今の日本の俳優で、総理大臣を演じることのできる人って、居るのだろうか?

袴田吉彦が、内閣危機管理監と言う設定で出ていますが、まず危機管理監としては若すぎると思うんですが、それを置いておいても、この映画で彼の役どころが必要不可欠であったかというと、そうではないですね。ちょっと冗長です。それと、官邸?のシチュエーションルームのシーンがあって、自衛隊幹部役も出ているんですが、自衛隊の将官としてはちょっと不自然な感じで、全く軍人、って言うか自衛官らしくありません。リアリティに欠けますね。吉田栄作の佐伯三等陸佐は良いんですけどねぇ。彼の、西崎の発言に対する「(われわれは)軍隊ではない。自衛隊だ。」と言うセリフが、自衛隊の矜持を示しているのでしょうか。このセリフがあったから、防衛省・陸上自衛隊・航空自衛隊の協力が得られたのかも。協力した部隊数は、結構あったようです。

突っ込みどころとしては、そのシチュエーションルームのシーンで、陸上幕僚長と言う設定の人物がブリーフィングを行っているんですが、陸幕長自らブリーフィングする可否は別として、陸幕長なのに肩章が三ツ星だったこと。陸幕長の肩章は四ツ星ですよ。統合幕僚長と見られる人物は、きちんと四ツ星だったんですけどね。映画の冒頭、F-15のスクランブルシーンから始まるのですが、これらの撮影は、先にも記したとおり、防衛省・陸上自衛隊・航空自衛隊の全面協力があったため可能であったんですが、陸上自衛隊の協力があっても、陸幕長の肩章は間違うんですね。それともう一つ。これも冒頭のシーンに関係する事柄ですが、この物語の設定では、日本の領空内でB-5 MIDNIGHT EAGLEに爆発が生じ、国籍不明機としてレーダサイトで探知されたことになっているのですが、日本の防空監視網って日本の領空の外側に向いているので、日本の領空内でいきなり国籍不明機が出現したとして、迅速に探知できるかと言う問題とスクランブルがかけられるかと言う問題があります。多分、両方とも、ダメなはずです。あ、あと、設定ではMIDNIGHT EAGLEの乗員は脱出しているのですが、ベイルアウトしたならコクピットの屋根は吹き飛んでいるはずだし、第一、座席が残っているのは変なんですけどね。まぁ、いろいろと突っ込むところはあるんですが、あんまり言うと、物語が成り立たなくなるので止めて置きます。

敢えてネタバレ的なことを記しますが、最後のシーン、日本的なハッピーエンドでなくて良かったです。『アルマゲドン』にも通じるエンディングでした。不覚にも、泣きそうになってしまいましたよ。今年の邦画の最高傑作だと思います。

勝手な評論家