劇場公開日 2008年10月11日

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「好きな女優さんだけど、合ってない」私がクマにキレた理由(わけ) うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5好きな女優さんだけど、合ってない

2025年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

『メリー・ポピンズ』は見たことがないのですが、明らかにそれを意識して傘につかまって空を飛ぶヨハンソンのシーン。残念ながら、彼女の表情にはファンタジーのかけらもありません。
世話をする子供と知恵比べをするシーンで、スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスと言う長い単語を言ってのけるのも『メリー・ポピンズ』由来の言葉。

そんな彼女に、母親が投げかける言葉”get your feet on the ground, young lady”「地に足をつけて生きなさい」まるで届かない忠告は無視されて、アニーは空高く、現実から足をそむけてしまいます。それを皮肉たっぷりに、メリーポピンズを引用して、ふわふわと街を漂うスカ=ヨハの何とも似合わないこと。

はっきり言って、彼女にコメディのセンスはあまり見当たりませんね。これがゾーイ・デシャネルだったら、表情一つで、観客を引き付けてしまうのに。

ヨハンソンは、眼力(めぢから)が強すぎて、ブラック・ウィドウのような、強い女はバッチリ演じますが、今作のような、シニカル・コメディには、向いてないようです。エレベータでのクリス・エヴァンスとの出会いのシーンも、本来ならもっと笑えるはずのシチュエーションです。おしりを丸出しにされたいたずら小僧に逃げられ、偶然クリスに目撃されるのですが、彼女の目的意識(子供にドアを開けさせる)が強すぎて、今自分がどれだけ恥ずかしい格好をしているかを、観客と一緒に忘れてしまうのです。

クリス・エヴァンスと、スカーレット・ヨハンソンという、すごすぎるキャスティングも、ただの偶然だったようで、この映画を公開した時点ではアベンジャーズの片鱗も見えません。

『ヘルプ~心がつなぐストーリー』という名作が、くしくも上流階級の子供を、他に仕事のない黒人女性が愛情たっぷりに育てることで、人種や偏見を打ち破っていく様子を見事に描き出しましたが、この映画は、それよりも早く、現代の上流階級が、いかに矛盾にあふれ、惨めな思いを抱えているかに着目しています。主人公は人類学を専攻し、アッパーイーストの白人の子育ては人類史上最も滑稽なスタイルを取っていると知りながら、それにはまり込んでしまうお人好し。

最近、世を騒がせた『逃げ恥』も、高学歴が意味を成さず、職探しを妥協してお手伝いさんに身をやつすという初期設定がありましたが、女性が社会進出をしようとすれば、必ず子育てという「関門」が付きまとうわけで、高収入の夫は家庭を顧みずに事実上の一夫多妻制を実現し、離婚した妻たちはワーキング・プアとして自らの人生を犠牲にして子供を育てる(この映画ではアニーの母親が看護師として働きながら子供を大学まで行かせた)という矛盾がニューヨークにもあるんですね。

とてもユニークで、素晴らしい脚本だと思いますが、子役の男の子は魅力不足、それからスカ=ヨハがミス・キャスティングだと思いました。本当は大好きな女優さんなのに。。。

邦題の『クマにキレた理由(わけ)』は、ずいぶんシャレたタイトルですね。原題「THE NANNY DIARIES」じゃ、はっきり言ってワケ分かんないですものね。いろんな意味で残念な作品でした。

うそつきかもめ