サルバドールの朝のレビュー・感想・評価
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難しい
苦手なフランコ独裁政権末期の話だ。冒頭から60年代全世界の政治運動の中心的人物の映像を盛り込んで印象づける。しかし、スペインの事情はわからないんです・・・フランコ政権下でどれだけの人が弾圧され苦しんで、そして処刑されたのか・・・。そして、カタルーニャ人やカタルーニャ語の立場も・・・。
主人公サルバドール(ダニエル・ブリュール)は刑事に待ち伏せされ突然の銃撃戦となり、瀕死の重傷を負いながら投獄される。アナーキスト集団で数度の銀行強盗で資金稼ぎをしていた彼を弁護するアラウは、警官殺しに関して無罪を勝ち取ろうと意気込むのですが、死刑判決は覆らない。それでも共感する人を懸命に集め恩赦要請を行うのです。
弁護士とのやりとりによってサルバドールの過去を知る前半部分。ここではどうしても若者たちが無鉄砲な活動をしているだけに思えてならない。実際に労働組合のストライキを援助している様子がないこともあって、資金稼ぎと称して銀行強盗ばかりを楽しんでいるようにも見えてしまうのです。公式サイトを読むことによって、ようやく彼と組織についての全容がわかるのですが・・・サルバドール本人がほとんど下っ端の活動しかしていないため中途半端な内容になったのかもしれません。
後半になってからは、主に獄中生活。彼の家族、弁護士アラウ(トリスタン・ウヨア)や仲間たちも映し出される。しかし、視点がころころと変わる不思議な構成によって、サルバドールの心情と周囲の人物の心情がどうもバランス悪い。そんな中でも看守ヘスス(レオナルド・スバグリア)とのエピソードに胸が熱くなってしまいます。サルバドールを単なる罪人として卑下していたヘススが、息子の失読症について忠言を受け、次第に心を通わせるようになる。「ラスト30分、感動の涙がとまらない」と謳ったコピーはこのヘススと末妹のおかげだったのか・・・
サルバドールの元カノにはレオノール・ワトリング。彼女の立場は微妙だった。別の男と結婚することになったようですけど、「『卒業』でも観にいく?」などという台詞からして、サルバドールに花嫁姿の自分を奪ってほしかったのだろうか・・・連絡場所としてしか利用されないことに失望したのか。もう少し心を描いてほしかったところ。
などと文句を言いつつも最後の30分には泣けてくる。たしかに警官を殺してしまったのは仲間の警官の弾痕があったにしろ、無罪を勝ち取ることは難しそうだし、処刑されるのはどうしようもない。しかし、それを「フランコが悪い!」などと叫ばれても、映画だけではぴんとこないのも事実なのです。やはり無知なためか・・・あぁ。
【2008年1月映画館にて】
でもこれって
映画の撮り方としては良かったし、内容も面白かった
実際の話ってのもいい
でもこれって結局は犯罪者を死刑にしたわけやん
警察もダメなところは多いし憎むべきなんやろうけど
どれだけ美化しようが犯罪は犯罪
まあ死刑はやり過ぎやと思うけど
関わった人たちの暖かみと悲しみを描いたヒューマンなドラマ
DVDが発売になるのを記念して、試写会が開催されたので行ってきました。フランコ政権の終焉前夜に処刑された1人の青年の死を、とにかく生真面目に、青臭いぐらいにまっすぐに描いた作品です。
映画『ぜんぶ、フィデルのせい』を見たとき、どうしてフランスの知識人が熱くなってスペイン人民支援に乗り出したのか。そしてアンナちゃんのお父さんが抱えるスペインから逃げてきた挫折感がいまいちよく掴めなかったのですが、この作品でよくわかりました。
ほんの30年前まで、反政府主義者を人間扱いしない独裁政権がヨーロッパにあったなんて信じがたいことです。
そして主人公サルバドールに架せられた死刑という判決も、ろくに審議もなく見せしめとして時のフランコ政権に殺されてしまうというひどい話なんです。しかもこれは実話で遺族は今もなお、再審請求を続けているそうです。
警官殺しの罪状も、サルバドールの発射した玉だけでなく、同僚の警官が撃った玉も
当たっていたのです。冒頭にちらりと同僚の遺体から玉を拾い出すシーンがあったので、取り締まった警官もそのことは理解していたはずです。担当の弁護士は、そのことを主張し冤罪を主張するものの弁護側の証人は一切却下されてしまいました。
見せしめとなった背景には、1973年にETAのテロが起こり、その結果独裁政権の後継者に指名されていた腹心のカレロ・ブランコが死んでしまったことがあげられます。怒ったフランコは、サルバドールらをはらいせに極刑に処したのでした。
但しサルバドールたちにも極刑に処されても仕方がないところもあったのです。活動資金をブルジョワから『接収』するという大義名分を立てて、銀行強盗を重ねていたのです。その間には罪のない銀行員に銃で重傷を負わせることもやっていました。
彼がそんな活動に入るきっかけは、自由が欲しかったというより、時代の不条理に納得がいかなかったからなのだと思います。作品中でも、ただビラ配りをしていただけの17歳の学生が殺されるシーンが入っています。
そういう時代に生まれ、その中で青春を過ごしているうちに、これはどういうことなのか、『総括』してみたくなったのでしょう。けっして彼は、自由の大義でも弱者救済のためためだけでなく、自身の納得のために活動をしていたのでしょう。
そういう連中が類が友を呼んで始めた闘争は、初めは未熟で青臭い抵抗運動でした。やがて限界を感じて徐々に武装した結果が、銀行強盗なのです。
彼ら自身が、時代の不条理そのものとなり、罪の意識が喪失していく過程がリアルに細やかに描かれていました。
死刑を言い渡されるまでの前半は、監督の思い入れも強すぎて、登場人物が多いのに説明不足でスジについていくのが大変でした。
収監されて、看守との交流が始まったころから、ぐっと人間ドラマに変わりましたね。 そのきっかけはサルバドールが父に送った手紙を読んでしまったことからでした。
一端は取り上げたものの、内容を見て感動し一気に彼の理解者に変わってしまったのです。
その内容とは、素直に犯罪者として捕まったことを詫び、このような息子に育ててしまったと悲嘆してはいないか父親の気落ちを案じる内容だったのです。自分の正当性は一切触れていませんでした。
サルバドールのお父さんは、スペイン内戦時の活動家だったけれど内戦後に人が変わって猫をかぶったように隠棲してしまったのです。そんな父親をどこか裁いていたのかもしれません。二人の仲は、すっかり断絶していたのでした。
そして死刑を言い渡されてからの後半は、不条理な死刑を何とか阻止しようとする仲間たちの友情と彼を気遣う姉妹のきずなの深さを見せつけます。刻一刻と近づいてくる死刑のタイムリミットに向かっていくシーンは、クライシスムービーといった趣で、緊張感がよく出てましたね。
それにしても、サルバドールの処刑の場面。処刑に使われる「ガローテ」の恐ろしいこと!むごすぎますぅぅぅ~。
看守との交情、父子の断絶と和解、兄妹の絆、仲間たちとの友情の厚さ。この作品は、不条理への憤りや政治的主張を静かに潜在化させ、サルバドールの朝に向けた関わった人たちの暖かみと悲しみを描いたヒューマンなドラマでした。
関わった人の思いがたたみ掛けて描かれるラストシーンは、きっと時代を経ても語り継がれる感動的な名シーンとなっていくでしょう。
主演のダニエル・ブリュールは、激情に流されない淡々と自然体で刑に望むサルバドールを好演しています。結構いい男ですよ。これに絡むのが元恋人役のイングリッド・ルビオ。ヌードなベッドシーンがあるのがいかにもスペイン映画ってところですね(^_^;
追伸
2007年11月、スペイン下院議会はスペイン内戦とフランコ政権下の犠牲者の名誉回復などを盛り込んだ「歴史の記憶法案」を与党社会労働党などの賛成多数で可決したそうです
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