劇場公開日 2007年5月26日

「近頃希有な真っ当な日本映画」しゃべれども しゃべれども ダース平太さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5近頃希有な真っ当な日本映画

2007年10月4日

泣ける

笑える

幸せ

情熱だけはあるけれど、頭でっかちでまだ自分の芸を見つけられず思い悩む二つ目の落語家、古今亭三つ葉に扮した国分太一が意外な好演を見せる本作は、監督を筆頭に映画のプロフェッショナルが作り上げた、近頃真っ当な日本映画だ。

 何より非常に丁寧に作られている。それぞれの事情を抱えながら三つ葉が主催する話し方教室に通う3人の生徒たちが、落語を通して殻を破ろうと悪戦苦闘する姿は、“あなたの物語”でもありうる。そして彼らを教えることで、いつしか自分に足りない部分に気がつき、三つ葉の芸が化けるまでを非常に丁寧に描いているので、終盤に用意された展開が素直に胸に迫るのだ。

それから、役者陣が皆好演している。落語を演じるシーンの撮影は順撮りだったそうだが、その甲斐あってか、国分が終盤に見せる「火焔太鼓」は、本物の噺家のようにさえ見えるし、国分を支える香里奈、松重豊、子役の森永悠希(桂枝雀のビデオが教材だったそうだが、生き写しと言っても過言ではない)が映画の中の登場人物になってしっかりと生きているのが素敵だ。また、大ベテランの八千草薫と伊東四朗がまた素晴らしい。彼らの存在によって、映画の品格が一段も二段も上がっている。

ともかく、1人でも多くの人に観てもらいたい温かい映画だ。

ダース平太