劇場公開日 2007年2月17日

「本当に怖いのは・・」エクステ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本当に怖いのは・・

2011年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

怖い

興奮

「愛のむきだし」で世界から高い評価を受けた園子温監督が、栗山千明を主演に迎えて描く、サスペンスホラー作品。

ヘアー・エクステンション、通称エクステに使われる髪は、誰のものか分からないそうだ。どこの国から流れてきたのかすら実は分からない。食品やら化粧品は生産国に対する関心が非常に高いのに、この無関心は明らかに不自然である。これは・・面白い。

監督、園子温は巷の女子高生との会話を通して、このエクステ裏話を聞き本作の発想に繋げたという。非業の死を遂げた女性。彼女は現世に激しい怨念を持ち、伸び続ける髪をもって殺戮を繰り返していく。上質なエクステとなって。

作り方が、陰湿である。純粋に「この世への復讐を果たそうとする亡霊」と「それに抗う人間」という構図で作っても相当に人間の恐怖心を煽るテーマである。それなのに、この簡潔な展開に「亡霊よりも薄気味悪い変態」を乱暴に放り込み、観客をかき回す。

「マイ ヘア~」と死体の髪を収集する遺体安置所に務めるオヤジ・・いそうだ。隣の部屋にいそうだ。この「あり得る」気色悪さをとことん掘り下げ、軽快に嫌悪感を弾き出す。加えて亡霊、貴方のつけてるエクステに憑く伸びる、ひたすら伸びるぶっ飛んだ殺意。これまた・・・「あり得る」。

臨場感、溢れすぎである。

大杉蓮の楽しく陽気な毛髪オタク狂も悲しいほどに「あり得る」(大杉さんがそれっぽい訳では無いので悪しからず)。本当に怖いのは「髪の毛」でも「オヤジ」でもない。こんな今夜も眠れないどろどろ不条理絵巻に私達を突き落とした、どこかの映画監督である。

雄弁に、この物語は語る。実は、人間の悪意の方が、幽霊よりも、呪いよりも、悪趣味で、理解不能で、怖い。

ダックス奮闘{ふんとう}