「独特な画が印象的」鉄コン筋クリート JIさんの映画レビュー(感想・評価)
独特な画が印象的
〈全体〉 素晴らしいアニメーション表現、そして背景や小物やキャラクター達のハイセンスなデザインが印象的。シロの表情と声優(蒼井優さん)の表現は癖になりそう。アクションシーンも爽快で気持ちがいい。
メッセージとしては、あまりシンプルでなさそうだが、さまざまな人間関係の間からにじみ出るものがあり、一言ではいいがたい。強いて言えば台詞で出てくる「愛」は重要そう。ありきたりに思えるワードだが、ここまで個性的な世界観だと、かえって新鮮に聞こえる。不安定で絶妙な人々の関係性が味わい深い。
〈ディティール〉 印象的な要素は多い。主人公の二人は頻繁に服を変え、その都度、魅力的だ。シロなど、大きな着ぐるみみたいな帽子をかぶっており、それがすごくいい味を出している。腰に装着したトイレットペーパーで鼻をかむアイディアも凄くいい。車で寝泊まりしているとか、パイプの鈍器とかディテールの妙は言い出せばキリがない。私が原作を読んでないこともあって、余計新鮮に面白がれた。
アクションシーンはちゃんとかっこいい。世界観のリアリティが低い分、主人公等の身体能力も凄いことになってて、予想もしない動きを次々見せる。建物に俊敏に登ったり、高いところから風に乗るように飛び降りたりするところは、この映画のアクションの特色だろう。
シロの描く拙い絵が素晴らしい。自然な、シロの心境が伝わる絵だ。狂ってイタチを描く様もグッと来た。ちゃんと何かに怯え、気が狂っているように見えたし、周囲の反応も自然ではなかったか。画中画をリアルに描けてないアニメが多い気がするので、貴重な成功例だ。
中盤から出てくるヘビと三人の殺し屋は面白かったが、殺し屋の振る舞いはやや残念だった。高速で移動できるのに、すぐに主人公達を捕まえて殺したりはせず、のろのろしていて違和感があった。そのまますぐに剣で刺したり殴ればいいものを、もたもたするせいで結局逃がしたり、負ける。シロに刺した剣も急所を外していた。偶然で勝てたはOKだが、手加減してもらって勝てた、ではしっくりこない。
イタチのアクションはその意味ではカッコよかった。すごいスピードで動けて、強いから勝ったという感じ。イタチのシーンだけは、殺し屋もまともに戦っていた。
パッと見ても背景の密度感や絵の質感など、生々しい感じに仕上がっている。
やはりこの映画は記憶に残る独特の色を持っている。