劇場公開日 2022年10月21日

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「映像 × 音楽 × 役者の華 × 演出 = 傑作映画」明日に向って撃て! とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 映像 × 音楽 × 役者の華 × 演出 = 傑作映画

2025年11月4日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

悲しい

癒される

主題歌『雨にぬれても』。これだけでも、語り継がれる映画。
いつまでも聞いていたい。

DVDについていた監督のコメンタリーによると、この歌の歌詞がこの映画の主人公たちを表しているのだそうだ。
 歌詞だけ聞けば、救いのない世界。そんな歌詞に、あのようなメロディをつけるなんて!
 そして、その曲が流れるシーンをあのようにするなんて!

物語は、列車・銀行強盗の逃走劇。
 つい、この映画の数年前に公開されたという『俺たちに明日はない』と比べてしまうけれど。
 この映画の時代的には、まだ『西部劇』というくくりに入れることも可能だけれども。
 なんとも、見せ方・アレンジが全く違う。

「壁の穴」という盗賊団を率いるブッチ。
 その仲間たち、隠れ家の娼館の人々、鉱山主なども出てくるけれど、そのほとんどが、役名も確かではない人々。
 ほとんど、ブッチ・サンダンス・エッタの3人で話が進んでいく。
 正体が見えない追跡者。映像でもほとんど豆粒や、シルエットやカンテラの光で、その存在を示す。それが不気味過ぎて。逃げても、逃げても、巻いても、巻いても、ついてくる。ボリビアまでも!!!たくさんの映画を観た身であれば、追跡の手掛かりを、ブッチもサンダンスもばらまきまくっていると思うが、追跡者側の探索場面を見せないので、魔法でも使っているのか、この時代にGPSでも仕掛けているのかと思うほど。ブッチとサンダンスの焦りと困惑が手に取るように見えてくる。
 その中での掛け合い。不思議な三角関係。言葉だけを記せば、女を品物のように扱ったり、お互い罵倒しあったりしているのだが、絶妙な関係性をにじみだす。いつまでも、その掛け合いを見たくなる。

冒頭の無声映画。セピア色。光と影で見せる銀行リサーチ。ゾクゾク来る。

国立公園で撮影したという風景。伸びやかで美しくも、神々しい。
陽に透けた紅葉。
闇夜の中、近づいてくるカンテラの光。

写真で表した渡航生活。NYのシーンは予定していたセットが使えなかったゆえの苦肉の策だそうだが(監督のコメンタリーから)、かえって、物語にメリハリがついて、見ごたえがある。その享楽的なシーンの後の、ボリビアの風景。コメディ感あふれる展開。

USAの風景に比べると、ボリビア(撮影はメキシコ)は埃っぽいが、異国情緒あふれ、旅情を誘う。
斬撃のシーンも、その奥には山が神々しくすべてを見通しているように。

全体的にコメディチックな演出。たくさんの軍隊投入すら、やりすぎ感がコメディチックに見えてくる。

そして、有名なラスト。この流れだと、『俺たちに明日はない』の再演?といぶかしむと…。ああ、そう来るか!!!

そのような演出・映像・音楽に、役者の存在感が光る。
 知恵が廻り、用意周到にリサーチして計画を練るブッチ。軽口をたたいているようで、相手のことをうまく誘導している。そう説明すると神経質そうな切れ者をイメージしてしまうが、映画でのブッチは、おおらかで、楽天的で、何も考えていないようにすら見える。逃走劇なので、場当たり的な発想もあり、泣き言もあり、とても頼もしいとは言えない。それでも、どこかついていきたくなる人間味あふれたように演じるニューマンさん。
 対してサンダンスは即物的で激情型。考えることは全部ブッチ任せ。所見では、そんな男を背伸びしてレッドフォードさんが演じているようにも見えた。まだ売れる前に大抜擢。すでにスターだったニューマンさんのお相手。若者ありがちの、「俺だって」と粋がっているようにも。でも、何度も見直しているうちに、あの目が、様々なことにおもしろがっているいたずらっ子に見えてきて。かわいくってかわいくって。髭ずらなのに(笑)。この映画でブレイクするのもさもありなんと思ってしまう。
 その魅力あふれる二人に想われるエッタを演じるロスさん。絶妙な三角関係を成立させる立ち位置。見事。
 この3人が演じられたのではなかったら、ここまでの映画にはならなかったのではないだろうか。

強盗を主人公にした映画。
 コメディチックに仕上げ、主人公たちに思い入れできるように作っているが、実話ベースであるからか、筋だけ追えば、結構シビア。
 「自分のお金なら、貴方になら渡しますけれど」と金庫番に言われるブッチ。実話的にもそれなりに、人気者だったのだろうか。だが、仲間に裏切られそうになるシーンもある。大衆からもてはやされてという様なシーンは一切ない。
 「働けど、働けど」と石川啄木のような愚痴も…。「金遣いが荒い」とサンダンスに突っ込まれてもいるが。
 強盗はすれど「人を殺したことがない」というブッチ。初めて人を殺したのは…。なんたる皮肉。
 そして、ラスト。

それでも、これしかできなかった二人が、刹那的にも、その境遇の中で明日を信じて生きた生き様が哀れであり、心に残る。

≪追記≫
 ニューマンさんとレッドフォードさんの共演なので、つい『スティング』とも比べてしまう。役の中の関係性から、てっきり『スティング』⇒『明日に向かって撃て』だと思っていたが、逆だったのね。
 確かに、中身を見れば、即物的で激情型でひねりの無いサンダンスよりも、敵をひっかけるために交錯するフッカーの方が、より複雑な演技を要求される。
 ニューマンさんは、二つの役柄がまったく違い、どちらも魅力的。さすがです。

とみいじょん