「戦争がなければマトモになってた」ロング・ライダーズ TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争がなければマトモになってた
過去何度も映像化された実在の強盗団を扱った作品。
ウォルター・ヒルは娯楽アクションも得意とする監督。
登場人物に合わせて複数の兄弟俳優を起用していることからもコメディー要素を含んでいるのかと思いきや、さにあらず。
終始乾いた色調とやや突き放したような視線で無法者たちの日常を俯瞰する。
生前からマスコミに義賊として書きたてられたジェシー・ジェームズ。
仲間に裏切られ自宅で背後から射殺されるという悲劇性から死後は更に神格化され、古くから娯楽作品の題材になってきた。
そんな彼を本作は特別視せず、みずからも簡単に仲間を見棄てる小人物として活写している。
物語自体、J・ジェームズを中心に据えたものでなく、演じる俳優も主役級ではない(※)。クレジットもキャラダイン兄弟に次いで三番目。本作以前に彼を扱った作品とは異質な設定になっている。
南北戦争終結後も対立のしこりが残る南部で家族の絆が攻撃性を尖鋭化する様子は、昨今のアメリカ社会と重なって暗示的。
銃撃後捕らえられたヤンガー兄弟の末弟ボブは取材記者に「世の中が悪い。戦争がなければマトモになってた」と話すが、決してベトナム戦争後の取って付けたセリフではなく、実際の兄弟強盗団の多くが戦争中に略奪、強盗に手を染めたことがその後の人生を狂わせている。
兄に促されたボブは、「すべて南部のためにやった」とも。
だったら許されるのか、と言い返したくなる。
派手な流血シーンやロングコート姿のガンマンなど、アメリカン・ニュー・シネマやマカロニ・ウエスタンの影響が濃厚な作品。
NHKーBSにて初視聴。
(※)J・ジェームズ役のジェームズ・キーチは本作の製作総指揮と脚本にも携わっており、以後のキャリアも俳優としてより制作側の実績への評価が高い。