「チャンドラー原作でなければ良かったのに。」ロング・グッドバイ naochan926さんの映画レビュー(感想・評価)
チャンドラー原作でなければ良かったのに。
今年出た原作の新訳、創元推理文庫の「長い別れ」(田口俊樹訳)を読んだ流れで、早川書房の村上春樹訳「ロング・グッドバイ」を久しぶりに再読し、エリオット・グールドのマーロウなんてあり得ないと思って今まで避けていたアルトマンの「ロング・グッドバイ」を観た。
マーロウ物ではなく、普通の私立探偵主人公のハードボイルド物としては、途中若干ダレるがまあ変わった映画で、主人公の住んでいる不思議なマンション(アパート)とか、意味のないヌーディスト集団の住人とか、70年代ヒッピー文化の表現が今となっては古臭いけど時代の色を映し出すユニークな映画として星2.5から星3つはあげてもいいだろう。
しかし、レイモンド・チャンドラー原作の映画化としては最低だとおもう。
これはフィリップ・マーロウのイメージや世界観を完全に損なっているし、テリー・レノックスの扱いなど、原作をぶち壊しているし、ラストなんか、あり得ない。
質が高いのは、名カメラマン、ヴィルモス・ジグモンドの映像くらいか。
リイ・ブラケットって、スターウォーズ・シリーズの最高傑作、「帝国の逆襲」の脚本家として評価していたのだが、実はローレンス・カスダンがほとんど書き直したという説もあるし、このあと、ハワード・ホークス監督のチャンドラー原作「三つ数えろ」(The Big Sleep)を再見しても、後半の甘ったるい脚色が今一つだったので、本作のひどい脚本(脚色)を見ると、大して評価できないとがっかりした。
まあ、オリジナル映画だったら面白さもあるので、前述の評価を与えてもいいかもだが、チャンドラーの“The Long Goodbye”の唯一の映画化作品がこれかと思うと、墓場のチャンドラーも激怒して「大いなる眠り」につけないと思うので、あくまで原作の映画化という評価で星0.5。レイモンド・チャンドラー、フィリップ・マーロウの熱烈なファンは見るべからず。チャンドラーにまったく思い入れのない人には見るなとは言わない。ただ、原作未読であれば、絶対に原作から先に読むべし、くれぐれも原作読まずに見てはいけない。
エリオット・グールドはやはり全くマーロウには向いていない。「三つ数えろ」のボギーは原作者が言うようにやはり身長が厳しい。カメラが終始マーロウの目線で展開するという斬新な手法で映画界を沸かせたロバート・モンゴメリーは意外とぴったり(笑い声がいまいちだがw)。でも、やっぱりマーロウ役者と言えば、年齢は行き過ぎてはいるものの身長185cmの堂々たる押し出しで、「大いなる眠り」(イギリスを舞台に変えてしまったのが惜しいが)もさることながら、チャンドラー原作の最高傑作「さらば愛しい女よ」で、シャーロット・ランプリングと共に絶妙なチャンドラー・ワールドを醸し出したロバート・ミッチャムだろう。あるいは、オリジナル作品だが、「チャイナタウン」のほうが、アルトマン作品よりよっぽどチャンドラー作品と言えよう。
ほんと、チャンドラー原作の映画化としては酷い映画だった😡