「名作中の名作」レオン 完全版 臥龍さんの映画レビュー(感想・評価)
名作中の名作
大好きな映画でDVDも所有していますが、やはり一度は映画館で観てみたい。幸いにして今回、期間限定のリバイバル上映があることを知り、その希望が叶うこととなりました。
この映画の魅力はなんといっても登場人物にあります。
主役は寡黙で不器用、子供のように純粋な心を持ちながら、プロの殺し屋として冷静、冷徹、冷酷に仕事をこなすレオン。警戒心が強く、就寝時は常に銃を手元に置き、椅子に座り、片目を開けたまま眠る徹底ぶり。鉢植えの植物が唯一の友人であり、安息の居場所がない根無草のレオン自身を暗喩しています。
ヒロインは12歳の少女でありながら、どこか大人びた色気のあるマチルダ。しかし、家庭環境は最悪で日常的に家庭内暴力を受け、優しさや愛に触れたことがなく、学校にも通っていません。家族を皆殺しにされた後の彼女は文字通り身寄りのない根無草となります。
そして、悪役のスタンスフィールド。麻薬捜査官でありながら麻薬中毒者であり、麻薬の密売人でもあります。覚醒剤のカプセルを噛み砕くとその表情は豹変し、研ぎ澄まされた凄まじい嗅覚で標的を見つけては、なんの躊躇もなく銃をぶっ放す。周囲を震撼させるその様子はまるで『無敵の人』。完全にぶっ飛んだ人物設定なのですが、それを完璧に演じきるゲイリー・オールドマンの演技にはただただ圧倒されます。
映画はこの3人の絡みを中心に描かれていきます。当初はまったく接点のなかった3人ですが、マチルダの父親がスタンスフィールドの麻薬をくすねたことで、マチルダ以外の一家全員が皆殺しに遭い、たまたま外出中でその難を逃れたマチルダがレオンの部屋に逃げ込んだことから3人の関係が作られていきます。
スタンスフィールドへの復讐を目論む12歳のマチルダは、プロの殺し屋であるレオンから殺しのテクニックを学んでいきます。当初は教えるのを拒んでいたレオンですが、マチルダの覚悟に触れて惜しみなくそのノウハウを伝授していきます。
一方でふたりの間には愛情も芽生えます。孤独で愛を知らない根無草のレオンとマチルダ。年の差はあれど、そのふたりがひとつ屋根の下で生活を共にするなか、徐々に心を通わせ、互いを心の拠り所とし、生まれて初めて信頼しあえる大切な存在として認識するようになります。根無草のふたりにようやくできた安息の居場所。
ただし、これは恋愛感情というより、疑似保護者と被保護者のような疑似家族に近い関係性、家族愛に近い関係性でもあり、単純な恋愛感情とは少し違うのかなと自分は思っています。
完全版にはレオンとマチルダが心を通わせる過程が踏み込んで描かれ、特にマチルダがレオンに恋愛感情を抱き、レオンがそれに戸惑うシーンも描かれてはいますが、これは本当の意味での恋愛感情というより、少女が必死に背伸びをして大人に近づこうとする過程で芽生えた感情、あやふやな関係性をなにか確かなものにしたいという心情の表れなのかな、と自分は解釈しています。
物語は残念ながらハッピーエンドとはなりませんでしたが、それでもレオンは無機質な人生から短い間ではありましたが、人を愛する人間らしい人生を送り、マチルダも無事に復讐を遂げ、愛や優しさ触れて、その後は強く生きられたのではないか。そんな希望の見える終わり方だったと思います。