劇場公開日 2008年11月29日

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「なぜ人は事実を歪めるのか?」羅生門 neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0なぜ人は事実を歪めるのか?

2025年5月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

黒澤明の代表作にして、戦後日本映画を世界に知らしめた金字塔。『羅生門』は、ある殺人事件の真相をめぐって、関係者それぞれの証言が食い違うという構成で描かれていく。

登場人物は皆、自分の語る「真実」の中で、自分に都合のよい姿を演じている。多襄丸の誇張された武勇、女の誇りと絶望、夫の自殺という逃避。それぞれの証言は、自分自身への欺瞞に満ちている。さらに極めつけは、傍観者であるはずの木こり(志村喬)までもが、自分を正当化するために嘘をついていたという事実。映画を見ているだけのはずの観客自身にも「本当に自分を偽らずに生きているか?」という問いを突きつける。

宮川一夫によるカメラワーク(とくにヤブの中を走る映像や、木漏れ日を用いた光と影の表現)は、人間の“虚”と“実”を見事に視覚化している。過剰になりかねない音楽演出も含め、撮り方・演技・音響が見事なまでに調和しており、「見せる黒澤」「語る黒澤」の両面が最大限に発揮された作品となっている。

三船敏郎は表情と肉体だけで荒々しい多襄丸の情念を描ききり、京マチ子はあどけなさ、色気、気の強さという女性の複雑さを見事に体現している。

そして最後、羅生門の廃墟に赤ん坊を置き去りにしようとする木こりが、良心を取り戻すようにして子どもを抱き上げる。嵐に閉じ込められ、荒廃した羅生門。雨はやみ、雲の切れ間から、わずかに希望の光が差し込む。

登場人物全員の気持ちを見ている観客全員が理解できてしまうというのが本作の怖さであり偉大さだと思います。

NHK BS4Kで鑑賞 (2008年に修復されたデジタル完全版)
95点

neonrg
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