桃太郎 海の神兵のレビュー・感想・評価
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アニメへの、命がけの愛の墓標
このアニメ作品を知ったのは、藤井青銅『死人にシナチク』。
手塚治虫が、人生が変わったと感じたほど感動した、戦中戦後の日本アニメ最高峰。
見ればフルアニメで、キャラクター描写に稚拙な部分もあるものの、良質な動画を作ろうという気迫が伝わってきます。
完成品を納入したものの、検閲により、最終的に上映されたのは終戦の四ヶ月前。
制作現場はモノがなく、動画用紙に消しゴムをかけ、セルも撮影が終わったら洗って使いまわし、人はどんどん徴兵されてアニメーターが激減、それでも完成にこぎつけたという、地獄の様相だったそう。
桃太郎と動物の家来たちが、鬼ヶ島に投入されて現地人に教育をほどこし、鬼と戦うという戦意高揚ストーリーですが、空気感はあくまでもメルヘン。
ただし戦闘シーンは実際の音声を用いた、やたら迫力に溢れるものです。
実は映像作品の音声って、ほとんどは"造り物"なんですね。
波の音に、小豆をザラザラと鳴らした音が使われるのは有名な例で、黒澤明が剣戟の音を後乗せマシマシして以降、あのガキーン! ズピャ! みたいなSEが、当たり前に使われるようになったとか。
銃の国アメリカですら、近年まで発砲音はどこで造ったのかわからないあの、ズキュウゥゥゥーン! って尾の長い素材が使われてました。
現実の発砲音を映像に取りこんだのは、結構現代になってから。
多分録音機器の性能向上があったのでしょう。
ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演した『ヒート』(1995)、日本でも同年、押井守の『攻殻機動隊』(1995)がその走りになるのかな?
現実の発砲音って、音波の振れが瞬間的にピークに達してすぐに霧散するので、演出の感覚がズレると迫力ないんですよね。
存在感が出ないというか。
この映画の戦闘シーンは、メルヘンな画面に爆撃機の飛来音や重機関銃の発砲音がズンズン響く、おそろしくギャップのあるものになってます。
子供はこれを見て、戦争って怖いと思うんじゃないかな。
とにかく、制作者のガチな作りこみへのこだわりは、恐ろしいほど感じます。
結局、戦後のゴタゴタでフィルムが紛失、幻の傑作となっていましたが、松竹でネガが発見。
ようやく見られるようになりました。
主人公は将官然とした桃太郎ではなく、故郷の家族を想ってはたらく家来のサルたちだなーと。
どんな形であれ、平和が訪れてほしいというのは、人類最大の願いで祈りなんだろうと、この映画を見て思いました。
可愛い動物たちが戦闘機を操縦して格好良い
デジタル修正版をHuluで視聴。戦前に誰に観せるために製作されたのでしょうか。当たり前界隈ですが画面サイズは4対3でモノクロです。
驚いたのですがアニメのクオリティが高いです。ミュージカル風で、子どもたちの歌声が印象に残ります。
猿やウサギが服を着て日本語で話し、大日本帝国の国旗に敬意を込め、兵隊をリスペクトすることが素晴らしく、敵を倒しに行くことが格好良いというメッセージがあるような、小さい人向けの作品です。
後半に桃太郎の格好をした人間が登場します。零式戦闘機がリアルに描かれています。大人用だけでなく、小さい人達用の零式戦闘機も存在していましたから、もしかしたら小さいパイロットを募集するためのアニメだったのかもしれません。そう考えると怖くなります。
とても古くて貴重なアニメなので、視聴できて良かったです。
スカスカのプロパガンダかつ重要なメルクマール
清々しいくらい愚直な国策映画なので脚本云々に関して言うべきことは特にない。ただ、日本アニメーション史というものを総観した際に大きな存在感を示していることだけは確かだと思う。
本作ではディズニーアニメのようにデフォルメされた動物たちの織り成す外連味溢れるファンタジー活劇の最中に時折リアリスティックな陰影表現や精緻なミリタリー描写が挿入されるのだが、両者は水と油のように相反しており、作品全体としてみるとひどくアンバランスな出来栄えとなっている。
ただ、ここには当時のアニメーション表現を完全に席巻していたディズニーアニメからの逸脱の兆しが読み取れる。飛行機の中で落ち着かなそうに何度も腕をまくるクマの兵士や美しく空を舞う落下傘の群れといった描写のリアリズム的テクスチャは、その後の日本アニメに最も共通してみられる特徴の一つだろう。
50年代に『白蛇伝』でディズニーの内面化作業を完全に終えた日本アニメは、やがて『機動戦士ガンダム』シリーズや『AKIRA』や『Ghost in the Shell』、あるいは『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』といった現実の重力を湛えた数多の名作を生み出していく。言わずもがなその源流の一つが本作なのである。
ただまあやっぱり日本アニメ史のメルクマール的作品がかくも内容の薄いプロパガンダ映画だという事実には辟易せざるを得ない。国策映画だから仕方ないという諦観もあるのだが、木下惠介の『陸軍』のような面従腹背の二重性を備えた巧みな作品も存在していたことを考えるとやはり悔しい。
必見。
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