桃太郎 海の神兵のレビュー・感想・評価
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スカスカのプロパガンダかつ重要なメルクマール
清々しいくらい愚直な国策映画なので脚本云々に関して言うべきことは特にない。ただ、日本アニメーション史というものを総観した際に大きな存在感を示していることだけは確かだと思う。
本作ではディズニーアニメのようにデフォルメされた動物たちの織り成す外連味溢れるファンタジー活劇の最中に時折リアリスティックな陰影表現や精緻なミリタリー描写が挿入されるのだが、両者は水と油のように相反しており、作品全体としてみるとひどくアンバランスな出来栄えとなっている。
ただ、ここには当時のアニメーション表現を完全に席巻していたディズニーアニメからの逸脱の兆しが読み取れる。飛行機の中で落ち着かなそうに何度も腕をまくるクマの兵士や美しく空を舞う落下傘の群れといった描写のリアリズム的テクスチャは、その後の日本アニメに最も共通してみられる特徴の一つだろう。
50年代に『白蛇伝』でディズニーの内面化作業を完全に終えた日本アニメは、やがて『機動戦士ガンダム』シリーズや『AKIRA』や『Ghost in the Shell』、あるいは『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』といった現実の重力を湛えた数多の名作を生み出していく。言わずもがなその源流の一つが本作なのである。
ただまあやっぱり日本アニメ史のメルクマール的作品がかくも内容の薄いプロパガンダ映画だという事実には辟易せざるを得ない。国策映画だから仕方ないという諦観もあるのだが、木下惠介の『陸軍』のような面従腹背の二重性を備えた巧みな作品も存在していたことを考えるとやはり悔しい。
必見。
本作が製作された背景を見れば、日本が歩んだ歴史そのものが見えてくる。
映画ののどかな風景とは違い、現実として本土の平和が失われてしまったことが何とも悲しい。
戦意高揚映画でありながら、ディズニーへの深い愛敬が込められていた。
手塚治虫も落涙したという本作。
この機会にぜひ劇場に足を運んでみては如何だろうか。
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