「メモのみ」まぼろし くーさんの映画レビュー(感想・評価)
メモのみ
マリーは夫ジャンと結婚して25年。
やっととれたバカンスで、別荘のあるランドへ。彼の望む人気のない海(ライフセーバーの監視外エリア)でマリーが甲羅干しをして居眠りをしている間にジャンは消えてしまう。
バカンスへの道のり、車を運転するのはマリー。ジャンは眠いのか、コーヒーを買う。闊達なマリー。
別荘に着いても、テキパキと部屋を片付けるマリーに対して、ジャンはゆったりとしている。
マリーに火を熾すよう言われて、森へ焚き木を拾いに行くジャン。
倒木を持ち上げると、うごめくアリたち。ジャンの重たい巨体の下で、生き生きと生きるマリーの姿か?
長年連れ添い、安心して慣れ切った夫婦のため、妻にとって男性というものは夫ジャン以外にはない。そのため、ヴァンサンに上に乗られたとき、そのあまりの重みの違いに、つい笑い出してしまう。妻はかれのその重みををも深く愛している。
そもそもイギリスからやってきた彼女には頼れるものは彼しかない。義母が彼女を気に入っていない様子も描かれる。
愛の深さゆえに、彼女はまぼろしを見続けるが、
まぼろし、の僕なりの解釈その1
妻マリーは完全に夫ジャンとの生活しか考えられなくて、満ち足りて愛しているがゆえに、彼が失踪しても彼の死を信じない間はその幻影を見続けるのだけど、ジャンの方は不満は見せないながらも、いささかそんな愛され方が重たくもあっただろう。
それはパリの家から北西に離れたランドの別荘に着いて、火を熾すよう言われて、森に焚き木を拾って来るとき、倒木を持ち上げるとアリたちがうごめいているシーンにも象徴されていて、一つには、妻マリーは巨漢の夫ジャンの重みの下で生き生きと生きているということと、ジャンの方は妻や社会との関係の中で心の表面は固く重くなってしまい、生命力や活力はその下に封じ込められてしまっている、という2人それぞれの状況を暗示しているように思える。
色で言えば、タオルや水着は彼は青で、彼女は赤でした。
失踪後に買うドレスも赤で、ネクタイは青でした。
眼の色も茶系とブルー
2人は結構対称的で
太っている、やせている
物静か、活発
フランス人、イギリス人
由緒正しい家系、よそ者
などという風に特徴づけられていて、
それゆえにお互いがネガのように結びついて、一体をなしているように
少なくとも妻は思っていた。
しかし現実は違っていたと考える方が妥当で
その意味では、妻は最初からまぼろしの中にいた。
現実の幸福がそもそも幻影だったのだから、
最後に彼女が夫を浜辺に見つけるのが、狂気に根ざした幻影だとしても、そもそもの彼女の幸福は何も変わっていない(とはいえ経済的な危機とか、新しい男性との関わりとか、現実的な変化はあるんだけど)といえるのではないか?