「カルロ・ポンティの趣向を愉しむ映画」ボッカチオ'70 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
カルロ・ポンティの趣向を愉しむ映画
生涯130本以上もの名作映画を制作したイタリア映画界の大物プロデューサー:カルロ・ポンティが4人の個性派監督に競作として出したお題は14世紀の近代風刺小説の祖ボッカチオの名作デカメロン風に現代を描いて欲しいと言うことだろう。デカメロンは10篇の短編だが本作は4篇である、テーマ的には男と女、ユーモアと艶笑に満ちた恋愛話や失敗談の流れを汲んでと言うことだったのだろう。
第一篇の「レンツォとルチャーナ」は新婚ならぬ貧困カップルの健気な生活ぶり、まるで戦後の復興期の日本の若者の姿にも重なって感慨深い、他の監督作品のようなおふざけ要素は無く、黒澤作品「素晴らしき日曜日」にも似た貧しいカップルへの応援歌なのです。そういう意味では第三篇の退廃的な貴族のカップルとの対極を描いているのでしょう。
第二篇の「アントニオ博士の誘惑」は極端な猥褻嫌いの名士気取りのおじさんが実は饅頭怖いだったという裏返し風刺劇。映像の魔術師フェリーニらしい、公園の巨大ポスターからグラマラスなアニタ・エクバーグが抜け出して堅物の博士を翻弄するしかけで笑えます。
第三篇「前金」(仕事中)は自身も貴族の出であるヴィスコンティが描く若い伯爵夫婦の世間知らずぶりをからかう話、夫が11人もの娼婦と淫蕩三昧、妻も実は庭師ならぬ使用人とよくある話、「私も仕事を持って自立するわ」と言い出すが妻の閃いた職業とは女性の最も古くからあるあれだったという落ち。ロミー・シュナイダーが夫人を好演。
第四篇「くじ引き」はネオ・レアリズモの旗手と言われたヴィットリオ・デ・シーカ監督、生命力の塊のような気丈な女性ソフィア・ローレンと低俗で馬鹿な親父連中の毒気の強い艶笑喜劇。
ヒロインを誰にするかも監督の個性が伺われます。内容的には文化人のお遊び的でカルロ・ポンティの趣向を楽しみましょうということでしょう。