「戦争という現実(リアル)の中で、死に向き合う時・・・」フルメタル・ジャケット ratienさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争という現実(リアル)の中で、死に向き合う時・・・
戦争映画ってのは、どうも好きになれないんだけど、何故か何度も魅入ってしまう一本です。
難解な作品が多い事で名高いスタンリー・キューブリック監督ですが、この作品は単純で分かりやすい。ただひたすら戦争の悲惨さを見せ付けているんじゃないだろうか。
前半は海兵隊の訓練の様子。
長髪をバッサリと坊主頭にするシーンから、いきなり始まり、パワハラ極まりない教官の叱咤が延々と続く。こんな時代だったんだよね、全てがまかりとおる。(今もこうなのかは解らないけど)
鬱積された不満はストレスとして、弱者へのイジメに繋がっていく。全てを背負わなければならなくなった者は、精神的に追い詰められ、自ら死を選択した。
そして、訓練を終えた兵士達は戦場(ベトナム)へ向かう。
見るからに凄まじい戦場がそこにあった。
【ネタバレ】
後半は、ただひたすら戦場の兵士たちを映し出す。目の前で当然のように繰り広げられる命のやりとり。今まで普通に会話していた仲間の、突然の最期。歩き進む先で、突然突き付けられる銃弾。
どちらが正義でどちらが悪なのかなんて、全く触れない。ありのままの争いが目前で繰り広げられていく。
ラスト、正体不明の狙撃者に突如襲われ、仲間が命を奪われる。
リベンジに奮いたった兵士達の目前に現れた狙撃者は、一人の若い女性だった。銃弾を浴び瀕死状態となった彼女は、自らを撃ってくれと訴える。
敵も味方も関係なく、目の前で繰り返される人間の死。
進軍する兵士達が口ずさむミッキーマウス・マーチ。荒れ果てた戦場に夢の国の、希望に満ちた歌が虚しく響く。
一本の映画としてではあるが、ベトナム戦争に触れた気になる感覚だった。
どうしようもなく、呆気なく、失われていく命。そして、奪っているであろう命。
人の一生を奪う行為が正当化される戦争という事象に、全く関わることのなかった自分の人生。ただ、それだけでも幸せだったのかもしれない。