二十四時間の情事のレビュー・感想・評価
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難解で美しい
被爆地での行きずりの情事(不倫)。
一体どんな関連性や意義があるのかと興味が湧きました。
体験と記憶、記録と見聞、そして忘却による救いと破滅がテーマのようです。
1959年広島。
反戦映画出演のためヒロシマに滞在中のフランス人女優(34歳)と建築家らしき日本人男性(36歳)が出逢い愛し合う。
物語はほぼ彼らの会話だけで成り立っており、時間の経過が分かりづらいので整理します…。
彼女にとってヒロシマ最後の夜、
退屈そうにしている彼女を彼がナンパし、彼女のホテルの一室で情事。
ベットではひたすらヒロシマの話題①。
翌日撮影に出かける彼女。
彼は撮影現場まで出向き、彼女を執拗に(^_^;)口説く。
午後彼は仕事をサボり、妻不在である彼の家で情事。
床では彼女の故郷Neversの話題に。
離陸時間まで残り16時間となった夕暮れ時に、ヒロシマの街へ繰り出す二人。
「どーむ」という名の喫茶店兼バー。
ここで彼女は初めてNeversでの辛い体験を他人である彼に話すことになる②。
そして夜が明けて…
過去と現在の「行きずりの愛」に揺れ動く彼女を、引き留めたい一心の彼はひたすら追いかける…。
厳密には知り合ってから24時間以上経過していますね。
①ヒロシマの話題
彼女が「病院も行った。原爆資料館には4回も行った。被爆者の写真や映像や模型があった。だから知ってるわ。見学者には泣くことしかできないでしょう?」と語るのに対し、
「君はヒロシマで何も見てない。一体君は何に泣いたんだ?」と返す彼。
彼の家族は原爆投下時ヒロシマに居た。
彼は戦地に出向いていたため留守だった。そう話す彼に答える彼女の一言「運が良かったわね。」
②Neversの話題
戦時中18歳だった彼女は23歳のドイツ兵と駆け落ちするつもりが、ドイツ兵は撃たれてしまう。泣きつく彼女の身体の下で息を引き取った恋人。敵兵と恋仲だったことから、彼女はリンチで髪を刈られ、父親は仕事を畳むことになってしまい、両親にも煙たがれる。愛する人を永遠に失ってしまった喪失感と孤独感から彼女は発狂気味になり、2年間地下室に閉じ込められ20歳を迎える。
劇中でも言われていますが、原爆が投下され世界は歓喜に沸いたと。
海外…(少なくともアメリカ)で無知の人はナガサキをろくに知らず、
ヒロシマ=原爆=終戦(嬉!)
なんですよね…。
映画では、①わずか9秒間で28万人が死傷(本作より)する大惨事と②敵兵の恋人が殺され、ひとりの女性が失恋し家族に幽閉されるという悲しい体験が回想されます。
フランス人女性は、若さゆえドイツ兵に純粋に恋していたのでしょう。それがナチス劣勢となり街から軍が撤退したのを機に、彼女の世界は一変してしまいます。彼女にしてみたら、ナチス支配下のほうが幸せだと感じたことでしょう。彼女がヒロシマに関心を持つのは、広島も、投下直後の地獄の様と比べたら、投下前(海外目線だと戦時中)のほうが余程幸せだったのではないだろうかと、無意識に共感しているのではと思いました。
ヒロシマもNeversも、規模は違えど2人にとって悲劇の地であることに変わりありません。2人とも各地で命を落とす可能性すらありました。「運良く」被曝しなかった男性とNeversの一件で今の「彼女らしく」なった女性が出逢うには必要な悲劇だったのかも知れません。
①ヒロシマのような惨劇を繰り返さないためには、記録を残し後世に語り継いでいかねばなりませんが、どれだけニュースを見ても、何度資料館に足を運んでも、「見た」だけに過ぎないのです。14年後のヒロシマは、ネオン輝く眠らない街へと復興しています。たとえ「見えなくても」あの時のヒロシマを思い出せるのは、経験者だけです。何が起きたか「知る」努力は必須で、その感覚を想像しなければならないけれど、「知った気」になってはいけないのです。
②「人生に起こる困難をときには考えないほうがいい。」
忘却は人間が生き延びるために必要な能力。
しかし女性は、相手がまたかつての敵国出身者という、14年ぶり2度目の、叶うことのない行きずりの恋愛にはまり、再び裏切りと不貞と嘘のスリル、恋の破滅と共に死んでいくような感覚を思い出してしまったようでした。
どんな悲劇も、どんな大恋愛も、時間が経てば忘れてしまうのだろうか、残したい記憶さえもかすれてしまうのだろうか、あんなに愛した人を忘れる自分は薄情だろうか、恋人の死体は運ばれてしまい、墓を建てるわけにも、原爆のように石碑を建てるわけにもいかない、誰にも言えなかった過去をよく知りもしない日本人に話している自分は、あの悲劇を乗り越えたのだろうか…、と彼女の葛藤は続きます。記憶に留めておきたい反面、忘れないと生きていけない、しかし忘れた頃に相手を替えてまた同じことを繰り返してしまう人間の危うさ。戦争もそうでしょうか…。
2人が無言で見つめ合うクラブの名はCasablanca。
“Hiroshima Mon Amour”
それは彼女にとっての彼のこと。
果たして彼女の選択は…。
この見目麗しい素敵な男女にベンチで挟まれ不思議そうにしているおばあちゃんが可愛いかった(^^)。
詩的なやり取りが続くので、万人受けではない作品かと思いますが、最初の1/3だけでも是非観ては如何かと。特に政治家や核兵器賛成の方々…、口唇が吹き飛んだ男児、全身焼けただれた少年らの眼に映る絶望と困惑の光を見ても、核に頼りたいですか??
主な舞台となった広島の風景、「どーむ」の雰囲気、全てがとても美しく、地獄の面影はありません。
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