「ハリウッドが最も輝いていた時代」ヒズ・ガール・フライデー 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッドが最も輝いていた時代
情報媒体の多チャンネル化が進みきった現代からすると、新聞が文字通り全ての情報を一元的に掌握していた時代があったことさえにわかには信じ難い。少なくともいち記者の記事一本で死刑囚を檻の外へ解放させられるような力はない。自社利益のために情報をでっち上げたり隠匿したりなどという横暴も今じゃフリーのジャーナリストだの暴露系Youtuberだのに瞬時にすっぱ抜かれて大批判を食らうこと間違いなしだ。しかし本作の時代においてはそうした新聞社の腐敗体質を含めてメロドラマに加工できてしまうくらいには大衆側に余裕があったことが窺える。1940年代、それはフランク・キャプラなんかが加担した戦争礼賛的なプロパガンダ映画はあったにせよ、マッカーシーの赤狩り旋風が吹き荒れる前のハリウッドが最も自由な時代だ。オーソン・ウェルズ『市民ケーン』みたいな名誉毀損ギリギリの内幕モノが公開に漕ぎ着けたのも、オールオッケーな時代の空気ゆえだろう。受け手も作り手も各々がアメリカ式の「自由」を最大限享受しながら伸びやかに映画とその受容空間を作り上げていたのが1940年代という時代だ。ただ、その「自由」が黒人や女性への憎悪と蔑視を内包したマッチョ的なものであることには留意しなければならない。
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