「やがて朝へと明けゆく」ナイト・オン・ザ・プラネット 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
やがて朝へと明けゆく
夜更かしのテンションにもアップダウンがあって、個人的には12時くらいをピークにだんだん下がっていく。そういう内的な温度感の変化が映像にそのまま落とし込まれた映画だった。とにかく身体感覚に馴染む。パリ編で目の見えない乗客が「私は映画を"感じる"のよ」と言っていたが、まさにそういうのにうってつけの映画だった。
本作では世界中の街を舞台にした掌編が次々と展開されていくのだが、それぞれの物語が布置される時間帯が、その街のテンションとはむしろ逆行しているのが面白い。
ロサンゼルスのビバリーヒルズなんか字面だけでアッパーでハイテンションな感じがするのに、物語が展開されているのはまだまだ浅瀬の19時ごろ。逆に一番盛り上がりそうな22時ごろにはニューヨーク・ブルックリンの鬱屈とした風景が画面を埋め尽くす。あるいはファニーでおしゃべりなローマ人も午前4時のダウナーさと対消滅を起こす。
このように街の雰囲気と時間帯の雰囲気の総和がそれぞれちょうど同じくらいになるよう調整されているため、個々の物語にはそれぞれまったく相関がないにもかかわらず、全体を通して見ると奇妙な統一性がある。
でも最後のエピソードだけはちょっと違うかな。時間帯も午前5時で、会話の内容もかなり暗い。なんだかんだユーモアが基調を成している他の4つと比べるとけっこう趣が違う。というのもこのエピソードは物語的にも時間的にも「最後」だからだ。
映画も夜もひとときの夢であり、時間が経てばいつかは朝へと明けていく。そうでなければ不健康だし、先行きがない。観客をいつまでも居心地のいい車内で眠らせ続けず、最後には「さあ終幕ですよ」と肩を叩いてやる。それが物語の運転手としてのジャームッシュの優しさなんだろうなと思う。
個人的に好きだったのはやっぱりニューヨーク編かな。ヨーヨーと義妹の他愛ない兄妹喧嘩とヘルムートの孤独な境遇の対比がおかしくもあり残酷でもあり。たった20分そこらの尺でアメリカ社会の明暗のディテールをまじまじと体感させられた。