「「時代」を表現する家族像と、変わらずある家族像。」戸田家の兄妹 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「時代」を表現する家族像と、変わらずある家族像。
⚪︎作品全体
本家が質に入れられて行き場のない母と未婚の三女・節子。家族の家へ行くけれど居場所のない日々を過ごす。
正直、自分の生活を優先して親を蔑ろにする構図は『東京物語』と重なって見えるけど、結末が全く別の方向にあって、それはそれで面白い。
『東京物語』では子どもたちに改心を求めるでもなく、両親は静かに尾道へ帰っていく。一方、本作では次男・昌次郎が兄弟へ痛烈な喝をくらわせ、昌次郎が率先して面倒を見る。これほどカタルシスのある物語を作る人が10年後に『東京物語』で哀愁の物語としているところとしては、やはり太平洋戦争が区切りとなっているのだろうか。
小津作品を俯瞰したときに、本作は多作品と比較して「自由」という要素が印象的だった。
当時は国際都市だった天津で新しい仕事に挑む昌次郎、事務員として働こうとする節子はまさにその象徴で、親や家族の意向を重んじる昭和の時代では珍しい気がする。プロップの少ない作品だが、「自由」のモチーフとして九官鳥を使っていたことも印象深い。
外へ外へと向かっていく日本国にリンクさせるような一作だった。
その一方で、家族関係のドラマを丁寧に映しているのがまた巧い。長い間、誰が自分を育て、誰が巣立つ自分を見守ってくれていたのか。それをスクリーン越しに見直しさせられる昌次郎の一喝だった。
セリフのみで語られていたが、昌次郎の一喝で兄妹たちが反省しているのも当時の時代より前からある家族関係の重さを映しているように見えた。
令和のこの時代、兄弟で揉めて疎遠になっても都合が悪いことはほとんどなく、そのまま縁を切ってしまうものも多い。ただ、本作の時代では親族の繋がりは重要だ。放映当時は意識なんぞしていないのだろうが、令和に見ると家族関係への考え方がここまで変わったのかと、気付かされる部分もあった。
小津作品では少しイレギュラーでもあり、この後作られる作品群とつながる部分もある。小津作品としても、戦前当時の家族観としても、非常に興味深い一作だった。
⚪︎カメラワークとか
・長い廊下を映すカットが多かった。一般的な家屋にはないものだろうから、それだけで豪邸感が出ていた。
・鵠沼の別荘のシーンはいつもの小津レイアウトだったけど、だからか、そこまで狭いわけでも悪い環境な訳でもないように見えてしまっていた。
・ラストカットが面白い。縁談相手の顔合わせに逃げる昌次郎。兄弟への一喝は逃げずに気風の良い感じだったのに、自分のこととなると逃げ出す始末。
⚪︎その他
・昌次郎みたいなことを今の時代に言っても他の家族は「じゃあお母さんよろしく」で突っぱねてしまいそうだよなあ。家の行事なんかもめっきりなくなった今、世間体を気にして一緒に居続ける理由は「義理と情」だけだろうし、それがなければ「縁を切った」で終わらせてしまうのかも。
・天津に行くラストだけど、どうか無事に帰って来れてると良いな…と後の時代の人間からすると思ってしまう。