ネタバレ! クリックして本文を読む
いやあ、笑った。
おもしれーじゃん!! ひっでえ出来だけど……。
これ、最高の誉め言葉なんすよ。
だって、ホント、実はあんまりないんです。
「掘り出し物」だけど「めっちゃ面白い」映画って。
あるいは「完成度は低いけどやたら楽しい映画」って。
そういう宣伝の煽りはよーく見るけど、たいていは結局、タダのゴミでしかないんだよね(笑)。
あるいは『2000人の狂人』や『食人族』のように、ジャンルがトラッシュなだけで、出来はふつうに良く出来ているとか。
「幻の珍作」で「出来はめちゃくちゃ」だけど、
観たらなんだか凄い、ヤバい映画だった!
そんな体験は、いわゆるカス映画を延々観続けていても、本当に100本に1本あるかないか。
でも、『デリリウム』は、その数少ないアタリだった!!!
あのラスト30分の正真正銘の狂騒を、作り手すら何が起きているかわからないだろう混乱を、およそ先読み不能の猛烈に無茶な展開を、どれだけの「まともな映画」で味わえることだろう? あんな手に汗握る「映画が壊れていく」恐怖と狂気をリアルで体験できるスリリングな瞬間に、年間何回立ち会えることだろう?
マジでヤバいよ、この映画は。いろいろと!
とにかく、監督のみょうちきりんな表現意欲の昂ぶりが面白過ぎる。
それから、犯人夫婦の顔芸がぶっ飛びすぎてて、楽しすぎる。
あと、どこまでもロジックは破綻しているのに、本格ミステリー的な趣向にこだわりつづける「頭の悪いフーダニット愛好」が愛おしすぎる。
全編で狂ったみたいに流れてるマカロニ・ミュージックが異常すぎる。
出だしの酒場のシーンから、もうフルスロットル!
ヘルベルト教授の、姐ちゃんのフトモモを観る変態の眼が本気すぎる!!
そして、教授を怪しむバーテンの「この変態め」顔がストレートすぎる!!
ちゃんと、不器用ながらも、カール・ドワイヤーのごとく「視線のドラマ」が構築され、誰が何を考えて、どれくらい変態なのかが手に取るようにわかる。要するに、監督はちゃんと俳優に演技指導をして、さらには視線の交錯によってドラマを演出しているのだ。
ただそのやり口が猛烈に陳腐で、大仰で、子供じみているというだけで。
ハンガリー出身でイタリア語が下手だったせいで役に恵まれなかったという、主演のミッキー・ハージティの「眼ぢから」がとにかく凄すぎて笑ってしまう。
魂をふるわせるような性欲と暴力衝動が、目から、顔から、身体から噴き出してる!
こいつ……マジで面白過ぎるぜwww
そして、ハージティの役者魂は、ちゃんと回りの俳優陣にも伝播する。
あの、一人で大河ドラマ『風林火山』の各人の演技を根底から変えてしまった千葉真一のように……。
みんなとにかく、凄い目をひんむいて相手を観る演技をするんですよ(笑)。
誰もが、猛烈な勢いで叫び、泣き喚き、恐怖する。
観ててホント最高なんです。この顔芸大会。
ただなあ、出来がいいかといわれると、
ひどい出来だというしかないんだよなあ(笑)。
そこは否定できない……。
たしかに、延々と繰り返される顔芸や、ヤケのヤンパチみたいな絶叫大会は面白い。
でも、とにかくモンタージュがひどい。
特にここが大きなポイントなのだが、この映画の場合、カット毎に温度感や、感情の連絡が「まったくなされていない」ので、常に唐突に叫び出したり、唐突に素に戻ったり、いきなり性的に興奮し始めたりと、まるで前衛映画のように各シーンがズタボロにつながっていない。なんか、思いつきで撮ったシーンを適当に並べてて、そこは本当にこだわりがないというか、一続きのドラマにする気すらもとからないというか。
あと、しきりに二元進行の並行モンタージュで物語を進行させるのだが、これも驚くほどにつなぎ方がへたくそで、だんだん何がどう成されているのか、観ていてさっぱりわからなくなってくる。
しかも後半になると、叙述トリックめいた仕掛けまで弄して来て、「犯人であるはずの人間が両方とも別所にいるのに、脅迫者が何者かに地下に閉じ込められる」という不可能興味まで追求しはじめるから、マジで混乱してくる。
技術はないし、出来も悪いけど、
監督の熱意はある。役者の顔芸もある。
ミステリーとしてはめちゃくちゃだけど、
異様にこだわりはある。個性的でもある。
こういうのこそ、「愛すべき映画」というんだろうな、とは思う。
それは、こんなバカな映画でも、
役者が本気だから。監督が本気だから。
適当にやって出来た低予算のゴミと違って、
ただただ「本気が空回りしている」だけだから。
もうちょっとなんとかならなかったのかな、とはもちろん思うが、こういう「前衛」のような得体の知れなさ(ちょっと勅使河原宏とかみたいな)が独特の味になっているのも確かで、終盤のひたすら意味不明だけど先読み不能の超展開は、迫力と馬力だけは猛烈にあって、たしかに凄いものを観させられたって気分にはなる。
少なくとも僕は爆笑しまくってました。
とにかく、
●「ミニスカ見たら平静でいられなくなる」変質者の抑えきれない欲情(じゃあ殺してしまおう!!)が、他のどんな映画よりも直接的で、暴力的で、野獣的に表現されている。臆面もない誇張が、映画を幼稚な次元に堕さしめているが、同時に、一見して忘れがたいものにしている。
これは、映画的というより大衆演劇や歌舞伎を思わせる演技プランに起因するもので、ベラ・ルゴシの時代にさかのぼるような、ユニバーサル・ホラーを思わせる顔芸がこたえられない(そういえばベラ・ルゴシもルーマニア出身で訛っていたぶん、顔芸を磨いたのだった!!)。
●殺害シーンはぬるく、冗長で、しまりがないが、同時に粘着質で、妙なリアリティがある。女体への興奮は間違いなく伝わってくるし、総じてフェティッシュでエロティックではある。とくに、毒抜きと称して、いきなり昏睡する女の足をボンレスハムみたいに縛り上げていくシーンの異常性は、およそ忘れがたい。
●ほぼ間断なく流れてくるマカロニ・ミュージックは、半分ギャグかと思われるくらいにその場の状況に合わせてドンピシャの曲が選択されていて笑える。とくに犯人が「むらむら」きているときの煽情的なビートが実によい! あと、なんと本作には『南からきた用心棒』や『黄金の三悪人』(Stranger♪)の主題歌歌唱でマカロニ・ファンなら知らぬ者のいない、あのラオールが刑事役で出ていて、作中でも二曲を高らかに歌い上げている! しかもこの刑事役がちっともカッコよくないというか、どこからどう見ても犯人としか思えない教授を、事件を曲解しては見逃し続ける究極のボンクラ刑事役で、よくこんな役受けたよなあ、っていう……(笑)。
●ミステリーとしては、やたら複雑に話を組み立てようとして、壮絶に失敗しているというしかない。失敗はしているが、このわけのわからない本格ミステリーへの偏愛こそが「ジャッロ」の本質だと僕は常々考えているので、そういう意味では本作はまごうことなき「ジャッロ」だ。
犯人自体は冒頭の殺害シーンから明かされているので、ここで書いてもネタバレにはならないと思うが、性的不能故にミニスカを見ると女性を殺してしまう犯罪心理学の教授が、いきずりの女性を大衆の面前で追いかけては惨殺するという、杜撰極まりない凶行を繰り返している。だが彼は警察捜査の協力者として名高いシャーロック・ホームズかソーンダイク博士みたいな立ち位置の犯罪学者なので、どんなに杜撰で疑わしい犯行を繰り返していても、警察は彼をちっとも疑わないのだ。すなわち、「探偵=犯人」の黄金パターンですね!
で、旦那が不能のためにいまだ処女だという美人妻(でも旦那にはメロメロで彼のSM趣味にも付き合う覚悟がある)が、この旦那の犯行を隠蔽するために、彼のアリバイが確立するときを狙って類似の殺人を行って警察の目を逸らせようとする。おお、『犬神家』パターンの犯行動機じゃないか!
これに、後半になると観客にとっても意外な第三の存在が唐突にクローズアップされるなど、「手の込んだ面白いミステリーにしたい!」という監督の情熱は十分に感じられる。
少なくとも、性犯罪者の夫を助けるために凶行を重ねる相思相愛の妻っていうのは、ずいぶんと淫靡で魅力的な設定であり、この大枠のプロット自体は普通に素晴らしいのではないか。あとはもう少し巧く作ってくれれば……いや、それだとただのこぢんまりした異常性欲もので終わっていたのだろうから、これくらい盛大にミステリーの底が抜けてハチャメチャになってたほうが面白いんだろうな。
●この映画には、爆笑ポイントがいくつもある。
○いきなり「きみにカードを書いたんだ」って美人妻に教授がカードを渡して、それに「わたしはイ~ンポテ~ンツで、君を満足させることができない~」と教授の声のオーバーラップがかかるシーン。あんな紙渡されても困るよなア。
○不能夫がされるがままの美人妻に興奮しすぎて、いきなり台所の納戸から謎の棒状の物体を取り出してきて、それで妻を責めさいなむシーン。何あれ? すりこぎ? 肉挽器? 電動あんま機? しかもなんでそれで責めるのが背中なんだ?
○犯人を追う刑事が屋上で見せる、謎の機敏な身のこなし。
○駐車係が勝手に(かつかなり唐突に)地下室に潜入した直後に外から扉を閉められて、自分のほほを叩きながら「閉じ込められたぜ!」って言うシーン。こいつの一人芝居が吉本新喜劇みたいで総じて面白い。
○女子大生のフトモモに釘付けすぎて、ずっと横を見ながら運転している教授。よくあれで湖畔とか走れるな(笑)。
○終盤のカセットを使った驚異の降霊会系トリック! 誰が??? 何のために??? 観てても全然わからないけど、あれ警察の仕組んだ罠だったりするのか?
○別に何も起きていないのに叔母と姪が転げまわりながら叫び続ける狂乱のシーン。こわい。こわすぎるw
うーん、こうやって振り返るとやっぱり面白いわ、この映画(笑)。
午前中に『きみの色』を観てせっかく心が浄化されたのに、わざわざ大森くんだりまで観に来てよかった!
その他、教授の部屋で見つかる巨大折り畳みナイフがガチでカッコよすぎる件とか(欲しい!!)、秘密の地下室での謎めいた女体拷問を仕切りにあいた複数の穴から除くシーンのフェティッシュな作りとか、終盤の螺旋階段でのやりとりとかきっとヒッチコックの『めまい』やロバート・シオドマクの『らせん階段』を意識しているんだろうなとか、見どころはたくさんある。
結局あの地下室でメイドを責めさいなんでたのが誰で、何が目的で、その際に「観客」がいるのはわかっていたのかどうかなど、ホント誰か観た人と答え合わせがしたいわ(笑)。
あと、今回観たイタリア語バージョンは、いくらどう考えても「メチャクチャ」な内容だったのだが、パンフの山崎圭司氏の解説によると、本作にはアメリカ版があって、ほとんど作り直しみたいに編集されて、作り替えてあるらしい。それによると、「なるほど!」と思うくらいにちゃんと筋が通っていて、尻切れトンボで終わった女子大生の末路もちゃんと描かれてるし、ラストもそれなりに整理されているようだ。もしかして、イタリアではちゃんと作れるのに敢えてそうしなかったとか?? なにそのダルダーノ・サケッティ的実験精神?
ともあれ、ジャッロ好きなら観ておいてよい珍作。
出来が悪いことをきちんと理解したうえで観るなら、
こんなに面白い映画もそうそうないと思います!