「誰にも見えず抗えない未来という死角(デッドゾーン)」デッドゾーン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
誰にも見えず抗えない未来という死角(デッドゾーン)
勝手にキング原作映画特集その6。
今回は『デッドゾーン』。
ドラマにもなってたし、タイトルをご存知の方も多いのでは。
交通事故で5年もの間昏睡状態だった男、ジョニー・スミス。
彼が眠りから覚めた時、結婚を約束していた恋人は
彼の元を去り、両親は年老い、そして彼自身は……
『触れたものの過去や未来が見える』という
人間離れした能力を身に付けていた。
5年の歳月で失ったものの重さと、自分を
化け物扱いする周囲の視線に苦悩するジョニー。
ある日、スティルソンという議員候補の政治集会に
偶然居合わせたジョニーは、彼の手に触れた瞬間、
その男がもたらす恐ろしい未来を目撃してしまう——
主演は『ディア・ハンター』の名(怪)優C・ウォーケン、
監督は『スキャナーズ』の鬼才D・クローネンバーグ。
なぁんかひとクセありそうな組合せ。
だが本作、監督の個性が良く出た映画とは言い難い。
まず、監督特有の人体損傷描写(人間をひとつの
物体として捉えるような冷たい観察眼)は殆ど無い。
原作がメロドラマ的要素が強い事もあり、いつもの
低体温な雰囲気も控え目。また、原作の内容を
そつなくまとめあげてはいるものの、そのぶん
各エピソードや人物の掘り下げは淡白で情感に乏しい。
彼もまた原作再現で精一杯になってしまった感じなのかなあ。
しかし、それら不満点を払拭するほど
素晴らしいのが主演ウォーケンのナイーヴな演技。
理不尽な運命へのやり場のない怒りを他人にぶつける弱さ、
自身の力に怯えながらも、それを人の為に活かそうとする優しさ、
とうの昔に失った恋人と再会した後で見せる涙。
彼は高潔なヒーローではなく、あくまで僕らと同じ小市民だ。
主人公の元恋人を演じたブルック・アダムスの可憐さ、
スティルソン議員候補を演じたマーティン・シーンの
狂犬の如き演技など、脇を固める役者も見応え十分。
あくまでいち原作ファンとしての意見ですが、
この配役はほぼ完璧に近いかと。
演技・演出は手堅く、先にも述べた人物描写と展開の
淡白ささえ無ければ、傑作に成り得た惜しい映画かな。
切ないラストも忘れ難いサスペンスドラマです。
ところで劇中、ウォーケンが本作の16年後に
出演する映画『スリーピー・ホロウ』の原典
について言及するのはただの偶然かしら。
<了> ※2012.05初投稿