「黒澤明、最後の傑作」天国と地獄 KIDOLOHKENさんの映画レビュー(感想・評価)
黒澤明、最後の傑作
初めてこの作品を観たのは、私が二十歳くらいの頃だったと思う。正直、その時はそれほど面白いとは感じなかった。というのも、私はその前に『椿三十郎』と『用心棒』を観ており、その流れで少し“変な方向に期待”してしまっていたようだ。
しかし数年後、改めてこの映画を観たとき、その真の価値にようやく気づいた。緻密に組み上げられたストーリー、張り詰めた演出、そして三船敏郎の圧倒的な演技。
三船敏郎は「三十郎役で演技が固まってしまった」などと言われることもあるが、そんなことは決してない。冒頭のほうのシーンで、三船の演じる人物が事態の重大さを理解するにつれ、徐々に追い詰められていく。その結果、部屋の中央で話していたはずが、いつの間にかカーテンのすれすれまで後退してしまう──あの場面の演出の凄みといったらない。そしてその緊張感は、そこだけでなく映画全体にわたって持続する。
この時代に、ここまで緻密な推理劇を描いたこと自体驚異的だが、いや、時代の問題ではない。ドキュメンタリー風の現実感を保ちながら、これほど完成度の高い推理ものが今でも他にあるだろうか。
残念ながら、私はこれが黒澤明の“最後の傑作”だったと思っている。この後の『赤ひげ』は、どうにも腑に落ちない。特に後半が甘ったるい話になってしまっていて、正直、観ていられない部分もある。
同時に、この作品は黒澤明の“三大傑作”の一つではないだろうか。黒澤作品の三大傑作を何にするか考えるのは、それだけで楽しいテーマだ。私の場合は、この作品と『用心棒』、そして『七人の侍』を挙げたい。
皆さんは、どの三本を選びますか?
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