「母性=愛すること・守ること・許すこと、そして弔うこと」ボルベール 帰郷 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
母性=愛すること・守ること・許すこと、そして弔うこと
ペネロペ・クルス演じるヒロイン、ライムンダは、典型的なラ・マンチャの女だ。気性は荒いが、情に篤く、たくましく優しい。今回の彼女の強烈な母性はどうだ!それは大きな胸とお尻が象徴している母性そのもの。
女は強い。重い冷蔵庫も運べば、死体も運ぶ。死体を処理した後で料理をしたりもする。ここで現れる女たちの連帯感がすごい。彼女に手を貸すのは全て女たちだ。この行動力を伴うバイタリティー。それは愛する者を守りたいという想いと、食べていかなければならないという女ならではの現実性に基づいている。
さて、物語は殺人や死んだはずの母の目撃情報など、サスペンスの要素を含みながらも、陰惨にならずにコミカルかつハートフルに展開していく。それをさらに盛り上げるのが、凝ったカメラワークと配色の美しさだ。スペインの家はカラフルでカワイイ!キレイなタイルの壁をはじめとするポップな色のインテリアやファブリック。何よりも「血」を意識させる「赤」の使い方が見事だ。
女たちは、強さだけを見せているのではない。母であるライムンダも、彼女の母に対しては1人の娘。過去の傷のために、解り合えなかった母娘は、同じ傷を受けて、わかりあい許しあう。
「死」という人間には一番受け入れがたい恐怖に対抗できるのは強い母性…。死者に対しては、全てを許し厚く弔い、これから死に臨む者に対しては、その最期を看取る勇気と責任感を発揮する。
アルモドバル監督は、母性=愛すること・守ること・許すこと、そして死者を受け入れ弔うことを、ラ・マンチャの強くてかわいらしい女達を通じて私たちに物語る。重要なテーマである母性と死…帰郷とは、死を受け入れ甦り、再び母の腕に抱かれるまでの魂の再生。