「進め三百火の玉だ! 覚悟ガンギマリのマッチョ軍団、その官能的肉体美はR‐18級っ💕」300 スリーハンドレッド たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
進め三百火の玉だ! 覚悟ガンギマリのマッチョ軍団、その官能的肉体美はR‐18級っ💕
古代ギリシア時代の都市国家「スパルタ」と、ギリシア支配を目論む大国「ペルシア」との熾烈な戦争を描いた歴史劇『スリーハンドレッド』シリーズの第1作。
ギリシア最強の軍隊を有するスパルタの王レオニダスの下に、ペルシアから使者が送りこまれる。服従を強いられたレオニダスだが、彼はそれを拒否。ここにスパルタとペルシアとの戦争が勃発する。
ペルシアの侵攻に備え、すぐにでも兵を動かしたいレオニダス。しかし、ペルシアの息がかかったエフォロイ(監督官)の妨害により戦争行為を禁じられてしまう。そこで彼は敵の大軍勢を食い止めるため、子飼いの戦士300人だけを連れ「灼熱の門」と呼ばれる街道に陣を取る…。
監督/脚本は『ドーン・オブ・ザ・デッド』のザック・スナイダー。
スパルタの王、レオニダスを演じるのは『トゥームレイダー2』『オペラ座の怪人』のジェラルド・バトラー。
スパルタ軍の兵士、ステリオスを演じるのは当時テレビドラマや舞台で活躍していたマイケル・ファスベンダー。本作は彼の映画デビュー作でもある。
鬼才ザック・スナイダーの名を世に知らしめたスペクタクル大作。原作は「バットマン: ダークナイト・リターンズ」(1986)などでお馴染みの天才アメコミライター、フランク・ミラーによる同名グラフィック・ノベルである。これは未読であります。
全世界で4億5,000万ドル以上の興行収入を記録し、2007年に公開されたR指定映画の中では最高のヒット作となった本作。描かれているのは今から2,500年も前に勃発したペルシア戦争であります。
やべーーーっ!!高校時代世界史で習ったような気がするが、この時代のこと全然分かんねえ💦スパルタってどこっ⁉
というわけで、映画鑑賞後久しぶりに古代ギリシアについてお勉強。
まず大前提として、古代ギリシャは今と違って1つの国ではなかったということ。スパルタ(バルカン半島の最南端)とかアテナイ(今のアテネ)とか、「ポリス」と呼ばれる大小200の都市国家がそれぞれ独立自治していた。統一国家による支配ではなく、市民による共和制により運営されていたこの体系は民主主義の先駆けといわれており、ポリスは「Politcs」(政治)や「Policy」(政策)の語源ともなった。
そんな民主的なギリシアだったが、だからと言ってそれぞれの都市国家が仲良し小好しだったわけではない。特にアテナイとスパルタをはじめとする周辺都市国家との間には不和が生じていた。そんな中でアテナイが頼ったのは、古代オリエント地方を支配していた強大な帝国「アケメネス朝ペルシア」(エジプトからトルコ、イランくらいまでが領地)。アテナイはペルシアと同盟を結ぼうとしたが、ペルシアはそれを拒否。同盟ではなく自分たちの配下に加わるようにアテナイに迫る。ここにアテナイとペルシアの交渉は決裂。2国間の関係は悪化してしまった。
紀元前499年、決定的な事件が起こる。ペルシアの支配下にあったイオニア地方(トルコの南西部)が独立を求めて反乱を起こしたのだ。イオニアはスパルタやアテナイに対して支援を要請。ペルシアと反目していたアテナイはこの要請を受けて軍を派遣する。しかし、この反乱は失敗。紀元前493年、反乱の中心となっていた都市ミレトスは陥落し、エーゲ海の諸都市はペルシアによって完膚なきまでに蹂躙された。
アテナイの介入を口実に、″王の中の王″ことダレイオス1世率いるペルシアはギリシアへの侵攻を開始。紀元前492年、小規模な遠征隊の派遣を皮切りに「ペルシア戦争」が勃発する。紀元前490年の「マラトンの戦い」(本作でも言及されていた「カルネイア祭」を理由にスパルタは不参加)ではアテナイを中心とした連合軍が勝利しペルシアを押し返すが、紀元前480年、王位を継いだ息子のクセルクセス1世(映画に出てきたピアスだらけの人)は侵攻を再開。30万~50万のペルシアの大軍勢がギリシアへと襲い掛かった。
と、ここまでが本作へと至る過程となります。一夜漬けなので間違っているところも多々あるかと思いますが、まあ大体こんなもんでしょう。
本作で描かれているのは紀元前480年に発生した「テルモピュライの戦い」という戦闘。この戦いでスパルタ率いる連合軍を打ち破ったペルシアはさらに南下を続け、ついにはアテナイを占拠してしまいます。しかし、「テルモピュライの戦い」とほぼ並行する形で行われていた「サラミスの海戦」でギリシア連合軍はペルシアに勝利。クセルクセスは戦意を失い、ペルシアへと帰国します。
残されたペルシア軍は、翌年ギリシア連合軍との総力戦「プラタイアの戦い」に挑みますが、指導者の居なくなった軍に士気があろうはずもなく、なすすべもなく大敗。これによってこの戦争の趨勢は決します。映画のエンディングで描かれていたのがこれ。ちなみに、語り部でもある片目の戦士ディリオスは創作の人物だが、彼のモデルとなったアリストデモスはこのプラタイアの戦いで雄々しく戦い、誉れある死を迎えたとのことです。
その後も膠着状態は続いたが、紀元前449年「カリアスの和約」によりついに戦争は終結します。これで平和になるのかと思いきや、その後はギリシアの覇権をめぐりスパルタとアテナイが対立。「ペロポネソス戦争」という戦いへと発展していくこととなるが、それはまた別のお話。…死ぬまでやってろ😅
仰々しすぎる画作り、やりすぎなアクション、多用されるスローモーション、歌舞伎かとつっこみたくなるほどの見得のしぐさ等々。監督2作目にしてすでにザック・スナイダーらしさは完全に完成してしまっている。一目見ただけで「ザックやんこれ!」と判断できてしまうのだから、彼の作家性…というか癖の強さにはオリュンポス山の神々すら絶句することだろう。とはいえ、今でこそ若干半笑いで語られるザックの作風だが、当時は本作で初めて彼の作品を観たという観客も多かったはず。そんな人たちがこの映画から受けた衝撃は尋常ではなかったことだろう。だってこんなん他で観たことないもん!今や世界的な人気監督となったS・S・ラージャマウリだって、絶対にザックの影響を受けているはず。『マン・オブ・スティール』(2013)など、DCコミックスの実写化がしょぼしょぼだったせいでなめられているけど、ザック映画のみがもつ破壊的な外連味はもっと評価されるべきだと私は思います。
ヴィジュアルを何より重視するザック監督。本作でもそのこだわりは爆発!この映画、なんとロケ撮影はペルシアからの使者が馬で駆けてくるその1シーンのみ。あとは全部スタジオ撮影なのである。『ベン・ハー』(1959)じゃないんだから💦
グリーンバックを用いた撮影により、背景や空などの景観は全てCG合成。それが生み出すのは、まるで原作コミックスの内容をそのまま三次元に切り起こしたかのような過剰で異常な神話的な世界。いや、大群に向かうスパルタ軍の血生臭くも芸術的な雄姿は、むしろ西洋絵画の実写化と言った方が良いか。とにかく、やりすぎなお話の内容も含めて全くリアリティはないのだが、この圧倒的な視覚体験には驚くより他ない。
グレーディングも、こんな不思議なものは観たことがない。カラーだけでなく、漫画のようなモノクロから、古写真のようなセピア色まで、画の色使いが場面場面によってころころと切り替わる。その中で、スパルタ兵の身に着けているマントの「赤」だけが常に赤く翻っており、この視覚的なショックが、スパルタ兵たちの強さと狂人性をより一層際立てているように思う。
このように、観客の度肝を抜くような映像が詰め込まれているのだが、本作1番のヴィジュアル・ショックはレオニダス率いるスパルタの精鋭300人、その鍛え上げられた肉体美である💕ギリシャ彫刻が生命を宿したかのような、均整の取れた肉体と甘いマスクを持つ美丈夫がズラッと立ち並ぶ様は壮観。布面積が極端に少ない衣装を身に纏い、くんずほぐれつの死闘を繰り広げる彼らの姿はほとんどゲイポルノの領域である。多分この映画がR指定になったのはスパルタ人がエロすぎるからだろう。若きマイケル・ファスベンダーも八面六臂の活躍を見せてくれるのだが、そのウホッ!いい男ぶりはすでに十全に発揮されているので安心して欲しい。…にしても、この頃のジェラルド・バトラーのフェロモンはハンパない。第2のセガールみたいになっちゃった今現在とはほとんど別人やないかいっ😅こんないい男がクマさんみたいになっちゃうんだから、げに時の流れとは恐ろしい。
少数精鋭vs大軍勢というシチュエーションや、民明書房も顔負けのトンデモスパルタ人描写には大いに楽しませて頂いた。濃厚なザック汁を堪能でき、大変満足したことは確か。
ただ、あまりにもスパルタを美化しすぎているあまり、ちょっとお話にねじれが生まれているような…。度々、「これは自由と支配の戦いだ!」みたいなことを言っているんだけど、スパルタはアテナイと違い君主制を採用している訳で、あんまり民主的な国家というイメージはない。大体、この映画では描かれなかったけどスパルタって他のポリス以上に奴隷を使役していたわけでしょ。そんな国の人に「これは自由のための戦いだ!」とか言われてもねぇ…。
また、本作はペルシア帝国を祖に持つイランから強烈なバッシングを受けているらしい。「ギリシア人はかっこいいのに、ペルシア人は化け物みたいなやつばっかりじゃねーかっ!ふざけんな!💢」という主張のようだ。…確かに。ペルシア側はほとんど『マッドマックス』(1979‐)な世紀末である。不死の軍団なんてあれ人間じゃないでしょ!あまつさえ、両手がギロチンになった怪物まで出てくるし…。時代考証もへったくれもあったもんじゃない。
本作は完全なファンタジーであり、史実よりも『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)に近い世界観。ペルシア人がオークのような造形なのはその為だろうが、そりゃまあイランの人からしてみりゃ面白くはないわな。
レオニダスの奥さんのNTR展開とか何の意味があったのかよくわからないし、視覚的なところ以外ではう~んなところも多いのだが、この映像には何物にも代えがたい魔力がある。こんなにすごい映画はなかなかお目にかかれない!ザック・スナイダー味を堪能したい人には絶対おすすめ✨
※ペルシア人の死体を積んで壁を作るシーンに、今や映画監督として有名になったスタントマン、デビッド・リーチが映り込んでいます。どこにいるのかみんなも探してみよう!