劇場公開日 1979年8月11日

「圧倒的前衛叙事詩」旅芸人の記録 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 圧倒的前衛叙事詩

2025年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

驚く

斬新

初めて観たテオ・アンゲロプロス監督の映画で、ある旅芸人一座の愛憎劇を1939年から1952年のギリシャ現代史を背景として描いていく大河ドラマ。4時間近い長さの難解で前衛的な作風の作品である。当時は広く映画を観始めたばかりで、ギリシャ映画という珍しさと邦題のカッコ良さとなんとなく面白そうな雰囲気に惹かれて観た。

当時はまだあったスクリーンにカーテンのような幕が開閉する映画館で観たんだが、映画会社のロゴもタイトルもオープニングも無く、いきなり映画が始まり、最後もエンドロールも「終わり」の表示も無いまま幕が閉まっていき、その閉まる幕に映像が映った状態で最後にブツッと切れて終わったので、ひょっとして映写技師のミスなのか?と思ってびっくりした記憶がある。ギリシャ現代史を背景とした作品だが、そこにくわしくないと歴史的なところはよくわからないだろうし、僕も観た時にはギリシャ現代史を背景としていることがなんとなくわかったという程度だった。作風もやや難解なので万人にはお勧めしがたい作品だが、時間軸や空間をも解体し、唐突に始まり唐突に終わるところまで含めて、“映画”という枠そのものを解体しようとする野心的な作品だった。

歴史的背景としては、1939年のメタクサス将軍の極右独裁体制の開始から、イタリア軍の侵攻、1942年のドイツ軍占領、1944年の国民統一戦線(共産党系の国民解放軍と亡命した国王の復権を望む王党派の民主国民同盟の連立政府)の勝利、戦後のゲリラ下部組織の掃討から共産派弾圧、1952年のパパゴス元帥の軍事政権の誕生までが描かれている。軍事政権下の1975年に公開され、製作中は作品内容を前世紀の田園劇と偽って製作されたとのこと。主人公の旅芸人一座の物語はトロイア戦争後のアトレウス家の古代神話──戦争から帰ったアガメムノンが妻とアイギストスに殺され、やがて息子オレステスが姉エレクトラと共にその復讐を果たす──をモデルとしており、登場人物の名前も神話の人物そのままである。とにかく圧倒的な映画でした。

バラージ