「民族分断が生んだ悲恋の物語」シュリ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
民族分断が生んだ悲恋の物語
すべてが解決し、査問を受けるジュンオン。宿敵である暗殺者イ・バンヒと暮らしていて何も気づかなかったなんて信じられないと査問委員会は彼を問いただす。
死地を潜り抜けてきたもの同士、そこには必ずただならぬ気配をお互い感じ取れるはずだ。査問委員会はとても信じられないし、観客も信じられない。そして何よりも信じられなかったのはジュンオン自身であろう。
なぜ彼はミョンヒョンの正体に気づけなかったのか。その理由はすべてが終わった後に残されたミョンヒョンの留守録テープに収められていた。
同じ祖国に生まれながら北と南で分断された民族。北朝鮮軍精鋭部隊第8部隊に所属したミョンヒョンはただ祖国統一を信じて地獄の訓練に耐え抜いた。そして皮肉にも彼女の生まれ持った才能が開花してしまう。平和な暮らしをしていたならけして開花しなかったであろう類まれなる暗殺者の才能が。暗殺者イ・バンヒがここに誕生したのだった。
すべては祖国統一のためと韓国要人を暗殺し続けたミョンヒョン。だが、もし祖国の分断がなければ彼女はイ・バンヒではなくミョンヒョンとして普通の青春を謳歌し、愛する人と恋をして結ばれ母となっていたはずだった。しかし祖国分断の悲劇は彼女にそんな当たり前の人生を許さなかった。
彼女は重大任務に就くために顔を変えて韓国社会に溶け込みミョンヒョンになり切った。全くの別人に。その彼女の工作が観客だけでなくジュンオンをも欺いたのだろうか。
そうではなかった。彼女はけして工作をしたわけではない。別人に成りすましたのではなくミョンヒョンこそが真の彼女の姿だった。
彼女が切望し続けた平和な社会での当たり前の暮らしを、ひと時の幸せな人生を彼女はジュンオンと出会い成し遂げることができた。そこにあったのは真の彼女の姿でありけして偽りの姿ではなかった。周囲はもとより、彼女を愛していたジュンオンでさえ気づくはずはなかったのだ。
彼女は言う、ジュンオンとの生活が自分の人生のすべてであったと。彼と過ごした一年間だけが人生のすべてだったと。
一つの祖国が分断され南と北ではまるで異なるイデオロギーを持つ分断国家。それはまるで二つの顔を持つことを強いられたミョンヒョンの姿とも被る。
彼女は最後の最後にジュンオンと出会い本当の自分に戻れた。暗殺者イ・バンヒとしてではなくミョンヒョンとしての人生を全うしたのだった。
民族分断が生んだ悲恋の物語。言わずと知れた韓流映画ブームの先駆けとなるエンターテインメント大作。当時は劇場鑑賞できずVHSでの鑑賞。
今回デジタルリマスターによるリバイバルで初めて劇場で見れたことに感無量。大国の都合により南北に分割統治され、同じ民族間で争いあうこととなってしまった朝鮮半島。そこを舞台にやはり民族分断というまるでその身を引きちがれるかのような痛みが脚本に随所にちりばめられていて、ただのアクションエンターテインメントではない大傑作として誕生した。
本作以降の韓国映画の躍進たるや素晴らしく毎年数本もの傑作を世に出し続けている。
劇場で鑑賞できて羨ましいです。そうですね。南北統一されたらプロパガンダで儲けている連中が困りますね。ミサイルも煽り屋も必要なくなるので、軍需産業もマスコミ(ネトウヨ含む)もこの利権を手放さないように今日もプロパガンダに精を出しています。