「マリア様…誕生」トゥモロー・ワールド bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
マリア様…誕生
久しぶりに、近未来を舞台とした凄い作品に出合うことができた。
2027年、子供が生まれなくなり、この先に望みもなく、人々は、ただただ年老いていくだけの世界。心も荒み、その中で起こる内乱や戦争、移民問題等、荒廃した世の中を舞台として、重いテーマをずっしりと覆い被せてくる。
不妊となった原因については、遺伝子操作なのか、ウィルスなのかは明確にはしていなかったが、作品の中で、「数年前に世界的に大流行した、インフルエンザ…」というセリフがあり、現在、世界が疲弊している新型コロナの現状を想起させた。
そこに、妊娠した移民の若い女性が現れる。主人公である、イギリス市民のセオが、政府軍、内乱軍の全てを敵に回し、人類にとっての大きな希望となる小さな命とその母を、命がけで守り抜いていくストーリー。
最初は、街も人の心も荒廃したシーンが続き、ホロコーストを彷彿とさせる移民への扱いに、辟易する感覚があった。次第にセオ達も内乱の中に巻き込まれ、後半の街中での銃撃戦は、戦争映画以上にリアルだった。いとも簡単に、無残にも人の命が亡くなっていく様は、テレビ画面で映し出されるアフガニスタンの現状と重なった。自分が戦場にいるかのような、迫力ある映像が、ワンカットで続いた。
そして、ラスト。戦場の中に響く赤ん坊の泣き声によって、銃撃は鎮まり、戦士や移民達が敵味方なく見守るシーンは、何故か、目頭に熱いモノが湧き上がってきた。正に、人類の希望となる、光り輝くマリア様の降臨のようなシーンであった。
本作は2006年作品であり、21年後の近未来を描いているが、2021年の現在にしてみれば、コロナの恐怖やタリバンの復活等、決してSF映画と片づけられる内容ではないような気がしてくる。