百年恋歌 : 映画評論・批評
2006年10月17日更新
2006年10月21日よりシネスイッチ銀座にてロードショー
ため息が出るほど完璧な恋愛映画
台湾の“巨匠”ホウ・シャオシェン監督の最新作は、1966年、1911年、そして2005年へとタイムスリップをくり返しながら、それぞれのエピソードで主人公を演じるスー・チーとチャン・チェンの間で生起する恋愛を描く意欲的な3部構成の映画。60歳を迎えようというのに、今なお方法論の進化を模索するばかりか、未成熟であるがゆえに不器用かつ情熱的な若い男女の心情を鋭く射ぬく視点の確かさも健在で、本当に驚かされてしまう。
なかでも僕は最初のエピソードに感動した。時代設定として自身の青春期に当たるせいか、ノスタルジックな雰囲気が心地良く、ホウ・シャオシェンの思い入れもとりわけ切実な感じがする。兵役のために意中の女性のもとを去らなければならない男性と、ビリヤード場に勤め、各地を転々と移動しなければならない女性との間で演じられる微妙な“すれ違い”のくり返し……。逃げる意図もなく逃げる結果になる女と、その後を追いかけるうちに次第に彼女への想いを募らせる男の“すれ違い”や2人の間の“距離”によって恋愛が静かにエネルギーを高める経緯が、時に繊細かつ丹念、またある時には大胆かつ省略的な手法でつづられていく。無理やり泣かせるかのような設定に持ち込む安易なラブ・ストーリー群が幅を利かせる今こそ皆に注目してもらいたい、ため息が出るほど完璧な恋愛映画だ。
(北小路隆志)