ザ・カップ 夢のアンテナ : 映画評論・批評
2001年2月1日更新
2001年1月27日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
チベット寺院でワールドカップ?
断っておくが、この映画には政治的なメッセージはない。ハリウッドのチベット関連作品にありがちな、あるいはハリウッド・スターが主張する「フリー、チベット」「フリー、ダライ・ラマ」的な匂いはかけらもない。だが、注意深く見ていくと、日頃なかなか知り得ない、ビビッドなチベット仏教の姿を発見することができる。その点は思わぬ収穫だが、映画の本質はまったく別のところにある。
舞台は北インド。ダラムサラ近郊というから、ダライ・ラマ亡命政府からほど近い。しかし僧院に暮らす少年僧たちの日常は、驚くほどストイックではないし、ましてや神秘的では全然ない。何しろ彼らは10代半ば、遊び盛りなのである。そんな彼らのヒーローがロナウドでありバティストゥータであることには、実は何の違和感もない。つまり、ところは変われど男の子はサッカーに夢中。中でもワールドカップの決勝戦たるや、どんな姑息な手段を使っても、たとえ他人を犠牲にしてでも見なければならない究極のイベントであることをこの映画は証明しているにすぎないのだ。
2002年大会の放映権料の高騰が取りざたされる昨今、僧院の少年たちが無事に決勝戦を観戦できることを、御仏に祈らずにはいられない。
(駒井尚文・編集部)