「ボロボロの男たちのプライド。」シービスケット すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
ボロボロの男たちのプライド。
○作品全体
シービスケットに関わる男たちは誰もがボロボロだ。ボロの度合いは違えど、欠けてしまった何かを抱え続けている。
そして、生きている。レッドもチャールズもトムも、そしてシービスケットも、生きることを諦めていないし、むしろ前を見ようとしている。その根底には、それぞれが自分のボロボロな部分を「治せるから」と信じているからだろう。
物語を手繰ると「治せる」と思える理由がそれぞれの中にある「プライド」であることに気づく。レッドはどん底の生活の中で父に後押しされたジョッキーとしての才能があり、チャールズも実業家としてのスキルがある。トムには老いてもなお、馬を治せる力があるという自負がある。副業のボクシングでボコボコにされても、東部の大金持ちに「田舎者」とコケにされても、あの馬の気勢に悪さじゃダメだと言われても、自身にあるプライドを持って立ち向かう姿勢がかっこいい。
環境は劣悪でも、その劣悪な世界を「治せる」というプライド。シービスケットの元へと集い、それぞれが持つプライドを発揮して、対抗馬を抜き去って行く。そこにカタルシスがないはずがない。
壁にぶつかるたびにそれを打開し、大怪我を負っても再び差し切って行く。多少無茶な場面でもとにかく足を動かし、全力で駆け抜けて行くボロボロの男たちの「プライド」に圧倒された作品だった。
○カメラワークとか
・レースシーンのカメラの位置が凝ってる。アクションシーンっぽい三人称視点、ジョッキーの主観カット。どれも迫力がある。
スローモーションの使い方が上手かった。ラストのレースで他の馬を抜き去るとともに観客席が強調されるスロー。1着で走り抜けて行くシービスケットの主観スロー。かけがえのない瞬間の切り取りとして絶妙だった。スローモーションって映像作品では見慣れすぎて陳腐に見えることの方が多いけど、この作品は良かった。
○その他
・ラストのレースで車の上に乗って競馬場を見つめるカットが良かった。あの時代の最先端の乗り物を踏み台にして序盤で旧世代の象徴として描かれていた馬を見る。今見たいのは、馬なんだっていう。その強調の仕方が上手い。