劇場公開日 2006年3月4日

力道山 : 映画評論・批評

2006年2月28日更新

2006年3月4日よりテアトルタイムズスクエアほかにてロードショー

自分しか信じられなかった男の肉体が暴走する

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戦後のまばゆいヒーローに日本映画は向き合ってこなかった。生前に隠し通した出生の秘密や早世をめぐる禁忌といった闇を、遠い過去のものとして扱えない事情があるのだろう。力道山の故郷である朝鮮半島発の企画として生まれた本作は、繊細なテーマに触れながらエンターテインメントとしても見応え十分な力作に仕上がった。

力だけを信じ心から笑える日を夢見ながら、まず直面した伝統=相撲にはびこる差別。その壁を突破するために選んだ国際言語=プロレス。密約を破ってまで日本一に固執した木村政彦との遺恨試合はほぼ正確だが、異端である彼が頂点を極めるために不可欠だった正統派ルー・テーズとの闘いが割愛されたことは残念だ。正攻法すぎる演出を含め弱点を補うのが、ソル・ギョングの超絶演技。不安と野望を抱えて自分しか信じられなかった男の、精神が漂流し、肉体が暴走していく様が凄まじい。

「ALWAYS 三丁目の夕日」の中の昭和は郷愁と幻想に満ちていたが、ここでは虚構の英雄の実像を通し、貧困から這い上がろうとした昭和の精神が描かれている。かつて“空手チョップ”は外国人をなぎ倒す武器だったが、今それは日本人を覚醒させるためにこそ振りおろされる。

清水節

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