オリバー・ツイストのレビュー・感想・評価
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JRの列車に乗ったときによく耳にするメロディ「鉄道唱歌」(作曲:多梅雄)を思い出してしまうテーマ曲。列車に乗ることができればオリバーも疲れなかったろうに・・・
ちょっと前まで『オリバー・ツイスト』と『オスカー・ワイルド』とを混同していました。もしかすると、オリバー少年は大人になるにつれてゲイに目覚めるんじゃないかとよからぬ想像もしてしまったのです。これは完璧な間違いでした(恥)。正解はイギリスの文豪チャールズ・ディケンズの小説ですのでお間違いなく!ましてや、人間とチンパンジーのハーフじゃないかと噂されたオリバー君でもありませんのでご注意を。
先日、wowowにてミュージカル映画の『オリバー!』(1968)も観ましたので、予習は完璧すぎるほどでした。『小さな恋のメロディ』の主人公でもあるマーク・レスターがオリバーの役を演じていて、周りの歌の上手さに置いてけぼりを食らっていた彼の寂しそうな表情が印象に残っています。オスカーでも12部門の候補の内作品賞を含む6部門制覇するほどの映画だったのです。しかし、主演男優賞候補だったのはオリバーではなくフェイギン役のロン・ムーディ。助演男優候補はドジャー役のジャック・ワイルドでした。この2人の好演も印象に残ります。
ミュージカルとドラマでは比較の対象にならないのかもしれませんが、音楽の良さを加味すると総合的にも『オリバー!』に軍配が上がりそうです。このポランスキー版の特徴は、原作に忠実(読んでないけど)であること、真面目に作りすぎていること、セットに金をかけすぎていることが挙げられるでしょう。非の打ち所がないため、面白くないとでも言うのでしょうか、あたかもディケンズの紹介映画のようになってしまいました。
では、どう脚色すれば素晴らしい作品になったのでしょうか。まず、素顔がわからなくなるほどメイクしたベン・キングズレーをせっかく起用しているので、彼には最初、目をギラギラ光らせて脂ぎった顔に塗りたくり、口からはヨダレを垂らすくらい不気味なじいさんにする。後半にはその不気味さから穏やかにオスカーをみつめる目に変化させ、愛情たっぷりの好々爺にしてしまう。ナンシー(リアン・ロウ)はフェロモンをガンガン感じるほど露出度をあげる。ビル・サイクス(ジェイミー・フォアマン)には『シャイニング』のジャック・ニコルソンをイメージしてもらう。こうすればメリハリのきいた俳優陣となります。更に、R指定を受けてもかまわないから、孤児の扱いやオリバーの受けた数々の苦難を残酷に描き、ナンシー殺害ではスプラッタームービーのごとく描けば完璧です。そして、助監督かアドバイザーとしてパク・チャヌクを呼び寄せれば、もっといい作品になったかもしれません。
アカデミー賞最有力などといった宣伝も見られますが、獲れるとしたらメイクアップ賞と舞台装置賞の二つでしょうね。
【2006年1月映画館にて】
ポランスキーのディケンズ
トーマス・ハーディ原作の「テス」の時は、それまでのポランスキー作品の趣向ではない違和感を持ちながらも、映画として感銘を受けたが、ポランスキーが古典的な作劇のディケンズを、尚且つ子供が主体の「オリバー・ツイスト」を映画化するとは予想外のことだった。(「テス」は昨年、タランティーノの「ワンスアポンアタイム・イン・ハリウッド」でシャロン・テートの”置き手紙”と知る)
リーンの「オリバー・ツイスト」から漸くカラー映像の大作で観られることに期待したが、結果としては、リードのミュージカル映画「オリバー」と同じく満足できなかった。
ストーリーテラーの面白さがなく、ポランスキーらしい演出の独自性も感じられなかった。唯一の関心は、ラストのオリバーの心の変化にスポットを当てたこと。人間の原罪に理解を示す点が、穿った解釈でポランスキーの人生行路と結びつくのだろうか。
道徳的で凡庸
ポランスキーについてはまだ「戦場のピアニスト」と今作しか観ていない。
「戦場のピアニスト」は自身のアイデンティティーが大いに反映された名作だった。
しかし、今作は得意の深く探求された人間心理、歴史の目立たない部分へのスポットの当て方は上手かったものの、いかにも道徳的で凡庸な子供向け作品の様に映った。
フィクションではあるが19世紀の英国、リアルに映し出された世界のトップを走っていた国の暗部は紛れもない現実だ。
また、生きる世界の違う2人の愛に揺れ動くオリバーの心情も"分かりやすく"映し出された。
何かと問題の多いポランスキー、この2作品ではまだ表面的な部分しか見えて来ない。
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