劇場公開日 2004年9月25日

「やりきれない。切なすぎて心が痛くなる。」モンスター(2003) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5やりきれない。切なすぎて心が痛くなる。

2023年10月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

怖い

私が裁判員として担当することになった裁判の被告としてこのリ―が現れたら、私はどうするのだろうか?
実際に会ったら「なんて身勝手な」と怒ってしまうのだろうな。

だのにセロンさんが演じるリ―を観ていると、少年法を適応したくなっちゃうよ。中年だけど。
 歯をむき出して、怒った時は体を硬直させて脅す以外のコミュニケーションしかとれないリ―なのに、映画が進むにつれ、リ―が愛おしくて手を伸ばして抱きしめたくなる。殺されそうになった時の恐怖感。その後の攻撃は最大の防御というのも、うん、わかる。なのに愛しい人は理解してくれない。ああ。
 そんな風に演じたセロンさん。脱帽。

ただ愛して愛してくれる人が欲しかった。”人”として遇して欲しかった。道具じゃなく。
    それだけなのに。

リーとセルビーの恋愛だって、 ごっこ遊びにしか過ぎない。それすらも手に入らない。その違いもわからずに「本当の」と思いこむ。それほど飢えていた。愛を知らなかったリ―。
 愛する人に認めてもらいたくって、自分をバカにした世間を観返したくって、自分を大きく見せようとホワイトカラーを望むリ―。学力が無くって事務ができないのを知られたくなくって、事務仕事をバカにして虚勢をはるリ―。そんなリ―をうすら笑う人々に囲まれていたら、本当に自分ができることに向き合えないよ。
 今自分ができる最低限の努力を認めてくれる人に出会えていたら変われたのかもしれないのに。世間は世間の尺度を押しつける。当該人物に取って、そのハードルがどんなに高くても。

セルビーの方が悪女に見えたよ。
 性的志向ゆえに、居場所をなくしているとはいえ。
 ただ、一緒に遊ぶ友達が欲しかっただけ。一人は寂しい。リーと同じに孤独を知っているとはいえ。
 自分のことしか考えていない。どこにでもいるバカな女。
 やってもらうことしか考えない。そればっか。自分で動けよ。
 「私は巻き込まれただけ、知らなかった」と被害者になっちゃうんだろうな。「稼いできてよ」それが何を意味するかなんて考えない。
 残酷な10代。自分のやっていることの本当の意味・社会での位置づけが見えない。実際にことが起こってから恐れ慄くだけ。

セロンさんが整形して(歯並びを変えて)まで、プロデューサーもやってまで、やりたかった役。リ―の痛々しさが切なくて切なくて。

最後の犠牲者と最初に会っていたら人生変わっていたのかもしれないと思うとやりきれない。

冷たいことを言えば、このような生い立ちながら、しっかり人生を歩んでいる方は多い。何が違うのか。
 セロンさんには自分を守ってくれるお母様がいた?
 繰り返すけど、最後の犠牲者と最初に会っていたら?

人との出会いが人を変えるのだと信じたい。

とみいじょん