「戦争映画ではなく、戦場を舞台にした思索の探求」シン・レッド・ライン Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争映画ではなく、戦場を舞台にした思索の探求
総合:65点
ストーリー: 55
キャスト: 70
演出: 70
ビジュアル: 80
音楽: 70
最初はちょっと退屈な映画だった。戦争映画なのに、戦争をしている緊迫感が薄い。銃撃の音や爆発音でうるさいはずの戦場なのに、何故か静謐な感じを受ける。目の前で生命体であった物の体が吹き飛ばされ肉が分離し命が消えつつあるのに、それが実際に起きている事とも思えない。現実を離れ幽体離脱でもして第三者の目から俯瞰しているかのような、しっとりと落ち着いた神々しさすら覚える視線で物事が流れ進んでいく。背景を美しく撮影し、自分の参加している殺し合いを、まるで他人事のように離れて見守っている。だが本当の戦争ってこんなもんじゃないだろうと思った。
だが何となくこの長い作品を延々と見ているうちに不思議な感じがしてくる。自分が社会に生き組織に属する人間であることを忘れ、自分自身は何者か、人類とは、生物とはという問いを、戦場の中に探索しているかのような気分になってくるのである。調べてみるとテレンス・マリック監督はハーバード・オックスフォード大学で哲学を学んでいたそうで、映画の題材の中にそのような主題が含まれているのかもしれない。これは戦争映画なのではなく、戦場を舞台にした哲学・詩・文学・芸術作品なのだろうか。そういう見方をすれば、最初に感じた退屈とは違った感情が芽生えてくるのである。
もしそれが正しいとして、そういう見方をする映画があってもいいかとは思う。なかには極限の戦場という体験を通して、そのような思いに時間を使う者もいるだろう。それはそれでいいのだが、やはり戦場という現実は今日の自分の命を繋ぐ事すら困難な場所。思索など吹き飛ばすくらい半端なく厳しいんじゃないのか、とも思ったので、美しい映画と認めつつも、少し頭でっかちで現実逃避的な青臭さも感じた。特に映画の舞台となっている戦場はあの悪名高き「餓島」ですから。