「あらためて「映画芸術」という言葉を思い浮かばせる」ミリオンダラー・ベイビー mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)
あらためて「映画芸術」という言葉を思い浮かばせる
先日見直した。素直に感動。
最初見たとき、イーストウッドは、まるでチャップリンだと思った。彼を想定したような脚本で、彼が演出、主演、それに音楽まで。その上この完成度!
この映画は、一見「尊厳死」がテーマのように見えるが、尊厳「死」ではなく、ボクシングを通して「尊厳(プライド)」をテーマにしている。この点は、今までのイーストウッドの映画に共通する。「尊厳死」をテーマにしているならラストのイーストウッドの行為は乱暴すぎる(医者でもない彼が注射で安楽死させるのは)。
メインのテーマは「絆」。ラスト近くで、イーストウッドが自ら手を下して彼女を死に至らしめるシーン。そのシーンの美しいこと。このシーンが、この映画の核。ここへ行き着くのに、それまでのシーン全てが費やされている(前半の盛り上がりとの対比が効いている。動と静)。その上、素晴しいのが、凄いシーンを撮ろうなんて力みもなく、二人の抑えた演技で、無駄な台詞は一切なし。彼女にゲール語で与えたニックネーム「モクシュラ」の意味を最後に静かに彼女に伝える。彼女の満足そうな顔。最高のシーンである。
彼はあえて重い決断を彼女のために、二人の「絆」のためにした。その後の彼はどうなったのか?カトリックの敬虔な信者で(ちょっと反抗的だが)、重い罪を一生背負う覚悟なのか。ラスト、二人で行ったレモンパイ屋で、一人しみじみ食べていたようだが。こんな役柄を納得させることのできる役者は、やはりイーストウッドしかいない。
モーガン・フリーマンは、イーストウッドのとの漫才のようなからみもよかったし、主演ふたりの架け橋的存在で、なにより彼がいい重みになっている。それに彼のナレーションの声の響きが素晴しい。これほどナレーションが、相乗効果を上げた作品は見たことがない。その上、このナレーション自体が、縁を切られているイーストウッドの娘あてに送られた手紙だったことが最後に判る。
この映画は、あらためて「映画芸術」という言葉を思い浮かばせる。それも大上段に芸術しているわけではなく、しっかり娯楽映画として分かりやすく、的確で、いろんな思いを観客に抱かせる。よく小説で行間を読ませるとか言うが、映画もそうだ。最近のCGを多用した即物的な映画と違って、やはり深い。
音楽も素晴しい。静かで染み入るような。この映画にぴったりな音楽だった。