「美しく静かに最後の時が流れる」海辺の家 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
美しく静かに最後の時が流れる
総合:80点
ストーリー: 80
キャスト: 75
演出: 85
ビジュアル: 80
音楽: 80
犬と共に寝ていた親父が起き抜けに海に向かって立ち小便するし、飼い犬も負けじと隣の家の車に小便するしで、最初はコメディ映画なのかと思った。いかれたパンク化粧の少年も登場するし、どう見ても真面目な雰囲気がなかった。
だがすぐにそれは一変し、家族模様の話になりそれぞれの人生や人間関係が明らかにされ解きほぐされてくる。人間この先がないとわかれば今までと価値観が完璧に変わり、過去のしがらみを捨て素直な気持ちになれる。遣り残したこと、後悔していること、間違っていたこと、それらが一度に押し寄せる。残された短い時間の中ではためらっている時間などない。せめて今からは悔いの残らない人生の終わりを迎えられるようにしたい。
途中途中ではコミカルな場面が散りばめられ、ちょっと激しいやりとりもある。だが美しい海辺の住宅地を背景にして、時には悲しみを含んだ音楽と共に時には波とカモメの鳴き声と共にゆったりと時間が流れて行き昇華していく。映画の最初の雰囲気とは正反対のその静かで穏やかな雰囲気の中で、登場する人々の感情と思いが一つの家に残された。
深刻になりすぎず、美しくだけ描こうとするのではなく、それでも最後にはみんなの想いを綺麗にまとめた。物語も雰囲気も良かった。
物悲しさと寂しさと美しさを併せ持つ「Both Sides Now」を流しながら、夕暮れにかすむ海を背景にしてかつて結婚していた二人が踊り、それを見守る長男がいる場面が最も秀逸。それはかつて生まれた長男の子守唄にしていた家族の想い出の曲であり、作りたかったのに作り上げることが出来なかった理想的な家族像の姿だった。
このBoth Sides Nowは映画のサントラ未収録ですが、Joni Mitchellの2000年発売のアルバム 「Both Sides Now」に入っているようです。原版は1960年代の発売ですが、映画で使用された曲は美しく感傷的なサクソフォンが入った新録音で、場面と共にこのバージョンも実に素晴らしい。