過去のない男のレビュー・感想・評価
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じわじわ来るおかしみ
ヘルシンキに到着した男が暴漢に襲われ、記憶喪失になってしまう。親切な一家と救世軍の女性イルマの世話で、仕事を得て何とか生活できるように。彼はイルマに惹かれるようになって。
監督が描くいつものとぼけた感じと使われるムード歌謡に、じわじわ来るおかしみがクセになります。クレージーケンバンドの曲も使われていて、監督がファンとのこと。ハンニバルという名の”猛犬”が、とても人懐っこいのも楽しい。結局記憶が戻らないけど、元の自宅に帰ることができる。しかし、その後の行動が良かった。「トータルリコール」を思い出しました。
コミカルで音楽たっぷりの一本
<映画のことば>
記憶がなくても心配ない。
人生は後ろには進まん。
後ろに進んだら、大変だ。
人間は「過去」がなくても、こんなに淡々と暮らせるものなのでしょうか。
不慮の事件に遭遇して過去(過去の記憶)をなくしてしまった彼なのですけれども。
実際、職探しにも、本名や生年月日や社会保障番号などの「過去」が必要とされ、挙げ句の果てに、薬物常習者扱いされる始末。
しかし、その一方では、売れ残りとはいえ、ミルク付きの食事を提供してももらえるなど、周囲の人々の温かな受け止めによって、今(現在)から未来に向かって歩みを始め、結果として生涯の伴侶にまで巡り会うという、いわば「ハッピーエンド」で、その描かれ方が、どことなくコミカルで、ほのぼのと眺めることのできる一本でした。
本作のアキ・カウリスマキ監督の作品は、評論子はあまり観ていないのですけれども。
しかし、DVD特典映像に収録されていた本作の主演女優:カティ・オウティネンのインタビューによれば、本作の同監督の作品は、どれも人物や物語を大切に描く、とのこと。
これから観続けて行くのが楽しみになった監督さんが、また一人増えたのかと思うと、それだけでも満足な評論子ではありました。
佳作であったと思います。
(追記)
拾ってきたジュークボックスを修理してもらい、コンテナ暮らしながら、彼の日常は、過去がないながらも「音楽はある生活」。
本作は、監督自身もファンであるというイスケルマというフィンランドのバンドのムード歌謡がたっぷりと散りばめら、それが本作の「雰囲気づくり」には、欠かせないアイテムにもなっていたようです。
やはり、素敵な(お気に入りの)音楽に浸れることは、日常の生活の中では、大切な要素なのだということなのででしょう。
(追記)
本作に登場する救世軍は、首都圏にお住まいのレビュアー以外には、なじみがなかったかも知れません。
(首都圏では、歳末の募金活動「社会鍋」でおなじみと思いますが、評論子も大学進学で首都圏に住むまで、知りませんでした。)
宗教団体(日本での位置づけは包括宗教法人)なのですが、現代社会での福祉水準向上のためには自らにも軍隊的規律が必要とのことで「軍」を名乗っているようです。
社会福祉活動としては、病院も経営しており、喘息持ちの評論子としては、都内在住の折は、杉並区内にある「救世軍ブース記念病院」に、よくかかってもいました(ブースというのはイギリス人の人名で、救世軍の創始者らしい)。
ドクターもナースも、もちろん院内では白衣姿なのですけれども。
しかし(今でもそうかは分かりませんけれども)その白衣の下は軍服姿で、襟には階級章が付けられていたのを、今でも覚えています。
<映画のことば>
演劇学校なら近くにある。
芝居なら、そこでやれ。
<映画のことば>
「待ってくれ。電話を一本かける権利はあるはずだ。」
「映画の観すぎだな。」
<映画のことば>
「カネは払う。死と同じくらい確実に。」
「払わなければ、どうせ死ぬことになるさ。」
ヘルシンキに着いたばかりの男性。強盗に遭い、記憶喪失になった話。 ...
ヘルシンキに着いたばかりの男性。強盗に遭い、記憶喪失になった話。
名前すら分からないことで、周囲と騒動になったり、時には良い関係になる場面もあったり。
もめ事もありながら、前向きなほうに進んでいたり。
過去を知る方 (元妻さん)から見て、まったく異なる人格者になられたのですね。
とても品よく描かれて、楽しめました。
列車内で、日本酒と和食が供されたり、クレイジーケンバンドの歌が聞こえたりもして、イイね!でした。
独特な大人のラブストーリー!?
本監督の評判を聞き付けて鑑賞。
うーん、独特過ぎる…嫌いではないが…うーん、結局どうしても独特過ぎてビミョーとしか言えない…
作中の「かけ算」「ハンニバル」「寿司」はウィットに富んでいて悪くない。そのあたりは本当に笑えて二重丸。
本作は「敗者三部作」の二作目とのことだが、他二作も観てみようかな。
ところで…本作を観て名優蟹江敬三さんを思い出したのは私だけだろうか。
そうなのかぁ、、、
アキ・カウリスマキ監督作品の魅力に、どっぷりハマってます。
怪我をしていて、記憶がないと言えば、まず警察でしょ…と思いつつ、でも観ていたら、警察の何と酷い事か!でも、今の日本も、、、
見捨てられているのに、見捨てない人々は尊い。だんだんと気力を取り戻して行くさまも良かったです。愛の力は大きいと思いました。
カウリスマキ分からない
アキカウリスマキ監督の良さが私には分からない。
90年代あるいは80年代の映画かと思ってたら
2003年!
カット割や構図もシンプルだし、寄りの絵が多いので
舞台観劇でもしてるかのようだった。
楽しみ方としては、
この男の正体は一体?と言うところがあると思うのだけど、そこも割と簡単に解決してしまう。
ファンタジーぽい設定から社会問題への喚起に繋がって
行くと思うのだけど、冷静な台詞回しや落ち着いたキャラが多くて見方がよく分からなかった。
と同時にこう言う映画を良かったと思える人になりたい
とも思いました。
不機嫌なおじんおばん
無表情なおじさんおばさんの希望のない毎日が少しずつ変化していくのを抑えた抑えた動きで積み重なっていくだけの映画なんだけど、なんでこんなに面白いのか。
後半にはそれを観ているだけで何故か笑けてくる不思議さよ。
視線のあっち、こっち、カメラのこっち側、と変化していくのも気持ちいい。
まずそうに吸うタバコ、味がなさそうなスープ、酔わなそうなビール、どれも何故か心に残る。
堪能しました。
『この世では神の慈悲ではなく自力で生きねば』
『この世では神の慈悲ではなく自力で生きねば』
『救世軍』と言えば、高校の時、500円を拾った。さぁどうしたものか?一緒にいた友達が『救世軍』だったので、警察に届けず『なんとか鍋』に寄付をした。つまり『救世軍』に寄付をした。僕はその友人をののしった。それから一ヶ月は経過しなかったと思う。その友人と帰宅途中、誰もいない野原の真ん中で、別の高校のク●ガキにカツアゲされた。お金を持っていたのは僕で、その金額が500円だった。『救世軍』の友人に『ありがとう』ってお礼を言われた。50年近く昔の話なので、詳細は確かでないが、事実である。
さて、『救世軍』の音楽だって良いよね。ポール・マッカートニーの曲で好きな曲もう一曲あった。『夢の旅人』だ。この曲を聞くと、『兼六園』を思い出す。小型カセットに録音したその曲を聴きながら、金沢の街を歩いたのを思い出す。そして、何故か、その時には行っていないが後になって行った『東尋坊の崖』と『夢の旅人』に出てくる『キンタイア岬の崖』が重なって記憶に焼き付いている。
曲調は救世軍である。
人生やり直し
アキ・カウリスマキの『浮き雲』に続いて本作はフィンランド三部作?敗者三部作?の二作目でもあり、記憶を無くした男というあらすじがハル・ハートリーの『愛・アマチュア』を想起させられる内容でもある。
悲惨な状況に陥りながらも悲観的にはならない、基本的に周りの人々の優しさに支えられ観ている側も一安心、悪は成敗され都合が良い気もするが単純な程にハッピーエンド、そんな終わり方が素晴らしいと思える感覚とそれぞれの登場人物が素敵で人情に癒されたり。
寿司を食いながらクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」が流れる唐突さが可笑しくも衝撃的で「MottoWasabi」って曲も日本贔屓なアキ・カウリスマキのセンスが最高。
【アキ・カウリスマキ監督が、当時のフィンランド不況を背景に、ぶっきら棒ながら心優しき人々が”過去を失った男”を支える姿が心に沁みる作品。今作は微かな希望と人間の善性を描いているのである。】
■夜行列車でヘルシンキにたどりついた男性(マルック・ペルトラ:荻上直子監督の「かもめ食堂」で、”コピ・ルアック”と言いながら、美味しい珈琲を入れるおじさんですね。)は暴漢に襲われ、意識不明の重体に陥る。
病院に担ぎ込まれ、一度は死亡宣告を受けるが、奇跡的に息を吹き返して病院から脱走する。
男性は港湾地区で行き倒れとなっていたところを、貧しきコンテナに住むニーミネン一家に助けられ…。
そして、キリスト教プロテスタントの慈善団体”救世軍”にも、炊き出しや衣服の提供を受ける。
◆感想
・今作は、私の勝手な感想であるが、アキ・カウリスマキ監督の人間性肯定感が、抑制したトーンで描き出された秀作であると思う。
・派手な演出は、アキ・カウリスマキ監督作品であるので一切ないが、ヘルシンキに”ある事情”で
でて来た男(マルック・ペルトラ)が暴漢に襲われ、記憶を失いつつも、彼をサポートするコンテナで暮らすニーミネンであったり(彼は、貧しい中、男にビールを奢る)、コンテナを提供する警備員であったり・・。
ー 皆が、全面的に男を支える訳ではなく、”条件付け”で支える処も、良いのであるなあ・・。-
・銀行強盗に入った男に巻き込まれるシーンなども、その男が当時のフィンランドの不況ゆえに仕方なく行った事をさり気無く描くアキ・カウリスマキ監督の視点も良い。
ー 彼の名監督は、当時の自国の状況を”負け犬三部作”で世に問うた訳であるが、自国の政府に対する怒りを、オフ・ビート感溢れる作品にしたことで、絶妙にカムフラージュしているのである。-
・そして男が出会った”救世軍”(キリスト教、プロテスタントの一派)で炊き出しをしていた女性イルマ(カチィ・オウティネン:アキ・カウリスマキ監督の、作品には欠かせない方である。)。
ー 最初は、素っ気ないが、徐々に惹かれて行く二人の姿。ー
<今作には、確かな人生の希望がある。そして、アキ・カウリスマキ監督の、人間性肯定の姿勢も全面に出た秀作であると、私は思う。>
■今作公開後に制作、公開された、荻上直子監督の「かもめ食堂」は、”絶対に今作に影響を受けてる!”と勝手に思っている作品でもある。
バンドのシーンがシュールであったかくて最高
不器用だけど最小限で適格な台詞まわしと、間に差し込まれるシュールなシーン。なんだか癖になるリズムで後に残る余韻が素晴らしい映画でした。
記憶喪失で自分が分からない事態も去る事ながら社会的に身元が保証されない人がいかに生活が難しいのか、ブチ当たる問題をまざまざと見せつつもけして暗くならずに淡々と次に進んでいく。
受け入れて次に行く、世の中に翻弄されているだけなのだけど主人公の不安ながら肝の座った表情と背筋の伸びたシルエットがそう思わせるのか振り回されている様でいて選択してそこにいる様な雰囲気が印象的でした。
こんな社会でも幸せを感じる心までは持って行かれないぞって反骨精神さえ感じる。
周りの人の温かさが沁みます。当たり前の様に力を借りる事って悪い事じゃないなって。
犬のハンニバルとご都合主義な管理人?のおっちゃんもだいぶ好き。
クレイジーケンバンドが馴染みすぎてて暫くするまで気づかず。えっ?日本語?しかもハワイの歌?ってなっちゃった。
独特
十数年ぶりに鑑賞。
なんか、コンディションの問題なのかわかんないんだけど、初めて観た時よりも、わー独特だナー、、と感じました。
ただ単に登場人物がみんな良い人でほっこりするっていうユートピア的な世界ではなくて、ちゃんと善玉悪玉まざってるんですよね。比率的には、善玉多め?
最初に主人公を介抱してくれる、海辺のプレハブ小屋に住む夫婦の奥さん、特に良い人。あらすじには「極貧」て書いてあることが多いんだけど、子供二人いて旦那の仕事週2っていうけど旦那がヘソクリでビール飲む余裕あって、って、極貧か…? 恵まれてるの、旦那の仕事もあるし。って本人も言ってるし、どっちかっつーと治安が悪くて失業率が高そう、街全体の。見てると。
でも定食屋?カフェ?の人とか、優しい。こういうとこに、のどかさが出てるのかな。
超、金にがめついおっさんが飼ってる犬(メスなのに名前がハンニバル)が、かわいい。ハンニバル超かわいい。もっとハンニバルのシーン増やしてほしかった(笑)
そのがめついおっさんからかなりな額で借りてるプレハブ小屋を、いつ立ち退きになるかわかんないのに綺麗に掃除して、直してもらったジュークボックスも置いてカスタマイズする主人公。拾った?冷蔵庫をテーブル代わりに、海辺のおっさんと修理工の兄ちゃん?にスープを振る舞う主人公。男3人が黙々とスープを啜ってるだけなのに、なぜだろう、面白い(笑)
そして小屋の近くにタネイモを植えて芋畑をつくる主人公。
化粧っ気の無さそうな救世軍のイルマが、主人公にほっぺチューされた後、慣れない化粧品をおずおずと試してみるシーン。いいっすね。
爆笑する感じではないし、登場人物たちも大体みんな真顔なんだけど、なんかクスッと笑えるシーンが都度、ある。
記憶喪失は大変だが、その後も、ものすごいドラマが、起きそうで起きない。起こったと思っても、あっという間、あるいは、あっけない幕引き。でも、そんなもんかもしれない。収穫した芋を譲る譲らないの交渉をしてるだけなのに、なんか見入ってしまう。神は細部に宿ると言うが、とどのつまり、そういった現実の一大事の連続が人生なんだろうね。なんつて。
おもしろい・・・たぶん(笑)
やっとアキ・カウリスマキの良さがわかった・・・たぶん(笑)
風景は「靴みがき」と
音楽は「レニングラードカウボーイ」と
そして女優
すべてのカウリスマキ作品に出演する カティ・オウティネンの
まったく魅力的でない魅力(!?)
心もあったまったよ・・・たぶん(笑)
ハワイの夜
踏んだり蹴ったりの男。これから何もかも無くし、絶望の淵に追いやられるのか・・・いや、そうではない。彼は必死に前を向いて歩いていた!明らかに人生の希望を持って。
実に後味がよい映画だった。過去を気にせず現在と未来だけを見据える姿勢の人生訓、ホームレス問題を抱える社会派映画、そして「愛」。特に気に入ったエピソードが、元零細経営者のおじさん!彼は銀行強盗に入るのだが、その理由が泣かせてくれます。現実の経営者にもこのくらい愛情たっぷりの人がいてくれたらと切に願います。
主人公の男は無口なため、台詞が唸らせるほど的を得ていたり、フランス風の小粋な比喩表現であったり、時には笑わせてもくれました。何とも渋いキャラクターなんだ!
ラスト近くで日本人のためのファンサービスか、「ハワイの夜」(byクレイジーケンバンド)が流れ、寿司を食べるシーンがあるのだが、これは必然性を感じない。しかし、頭の中にこのメロディーが焼きついてしまった。
見所は、男の記憶を確かめようとするシーン!「これは?」「灰皿」「これは?」「吸殻」「8×8は?」「61」「違うだろ。。。72だよ」
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