「ホラーでもあるが今観ると現代社会を予見しているようにも感じる秀作」回路 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーでもあるが今観ると現代社会を予見しているようにも感じる秀作
黒沢清監督の作品は『CURE』、『Seventh Code』、『クリーピー 偽りの隣人』鑑賞済。
黒沢清監督作品として『CURE』に並んで語られる作品で、インターネットがテーマってことくらいは知っていたもののジャケットのホラー感が食指を伸ばしにくくしていた。
『CURE』を見終えてこの機会に観てみた。
観終えて思ったのは、じわりじわりとやってくる恐怖と共に明確なメッセージ性もあり、個人的にはオーソドックスなホラーよりこういうホラーが好きな作品だった。
作品としては『リング』や『呪怨』に近い日常侵食系ホラーではあるけれど、個人的には『回路』以降日常侵食系ホラーが様々増えて無差別に襲われる部分はそこまで恐怖を感じなかったものの、人がシミになり灰になって消える様がその二作品以上におそろしく感じた。
それはなぜかというと、広島に落とされた核爆弾の恐ろしさを描いた『はだしのゲン』で核爆弾の爆発や熱波の威力に人間が一瞬で蒸発し、後ろの壁に人の影の形にシミだけが残る似たシチュエーションを知っていたからだった。
この作品を放射能汚染的な見方で考えると、シミが灰となって飛んでいく様や人の消えた街の姿はチェルノブイリ原子力発電所事故を思い起こさせる気がする。
また別な見方として、賑わっていたゲームセンターが後半で人っ子一人いない状態を今見ると、過去あったであろう次の流行りモノが来た際に人がそっちに流れる様(おそらく古くはディスコ、自分が経験したものだと駄菓子屋やデパート屋上の小さい遊園地、ゲームセンター、レンタルビデオショップなど)に見えるし、亡霊に触れると生きようとする意思が失われる姿や(ホラーだってのもあるけれど)全編通して性(未来へ何かを残そうとする)の描写がないのは、現代日本での様々な問題を予見しているようにも感じたし、そうであってほしくないバッドエンディングに我々が進んでいるようにも感じる。
個人的には描写としてビニールカーテンや荒廃した工場、それぞれの家が団地、やけに暗い営業所、人っ子一人いない街をフロントガラス越しの視点で滑走するシーンなど、様々な不穏なシーンが好みだったし、個人的に斬新な演出の数々は他の黒沢清監督作品を観たくなるモチベーションになる。
灰と化して消える演出は今見ると『アベンジャーズ インフィニティウォー』のスナップされた後の演出(灰と化す作品を観たのがその2つだけってのもあるけど)や、黒い塊のような死者が繋がりを求めるように生者を襲う演出は『DEATH STRANDING』に影響を与えてるように見えた。