「決してかなわない夢」JSA 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
決してかなわない夢
韓国と北朝鮮の境目にある共同警備区域に配置された南北軍人たちの交流を描いた作品。国家の枠を超えた民族的連帯が描き出されているという点において反戦映画と言えなくもないが、それよりは既に失われてしまったものへの哀愁や追悼としての意味合いが強い映画だと個人的には思った。
兵士たちはお互いが国を超えて信じ合うことができると確信する一方で、それが永遠にかなわない望みだということを痛いほど理解している。したがって彼らは夜な夜な北朝鮮の兵舎で他愛のない児戯に興じる。戦争という揺るがぬ現実からひとときの解放を得るために。
しかしそうした空想的な人間関係は脆く儚い。ほんの少し現実が闖入してくるだけでいとも簡単に瓦解してしまう。にもかかわらず最後まで身を挺して空想を守り抜こうとしたソン・ガンホを祝福してくれる者がもはやこの世に誰もいないというのがなんとも切ない。
ラストシーンの4人が集まった写真は、4人の共有した空想が現実に穿ったほんの小さな穴だといえる。しかしそれは空想であることを強調するかのように、遠い日の思い出のように淡く霞んでいる。
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