「好きな夢を見るなら・・・」あなたになら言える秘密のこと kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
好きな夢を見るなら・・・
海の中にポツンと浮かび上がる要塞のような油田掘削所。爆発事故が起こり一人が死亡、一人が大火傷・骨折・一時的失明の重傷を負った。無理矢理与えられた休暇にうんざりしていたハンナ(サラ・ポーリー)は、看護師が一人必要だという話を聞きつけ即名乗りでることに・・・従業員たちには看護師の経験があることだけ伝え、「出身はどこだ?」と聞かれても頑なに返答を拒むハンナ。仕事さえ出来れば文句はないはずと言わんばかりの彼女だが、過去には触れられたくない様子に従業員たちもそれ以上聞いてこない。いつ掘削作業が再開されるかわからない要塞において、国際色豊かな残された人々は皆孤独を分かち合うかのようで、人の痛みを互いに理解している優しい雰囲気に包まれている。
従業員が皆ヘッドホンで騒音をカットしている中、難聴のハンナには必要ない。労働組合にも加わらず、友達もいない。常に孤独。食堂では決まって白米とチキンナゲットと半分に切ったリンゴをひとりで食べているのです。彼女は食べ物も質素。ある町へ旅行に来て、入った店が日本の音楽がかかっている中華料理店というのもカウリスマキ風の哀愁を感じるのだ。
掘削所には世界各国の料理を作ることができるサイモン(ハビエル・カマラ)という料理人もいて、ハンナにも好きなものを食べさせたくてしょうがない。ジョゼフ(ティム・ロビンス)の看護を始めたとき、彼の残した食事(ニョッキ?)を食べたことがなかったらしく、こっそり食べてしまうのです。「美味しい。こんなの食べたことないわ」とハンナの気持ちが伝わってくる(実際には言ってません)。サイモンとジョセフのおかげで食べ物の言葉が数多く登場しますが、世界各国の音楽とともに土地の料理を食べるなんてかなり幸せかもしれない・・・
タイトル通り、看護師と患者が心を通わせハンナがジョセフに秘密を伝えるところも涙なしでは観れないところ。それでもまだ自分の名前をコーラのままにしておいたり、髪の毛の色もブロンドではなく赤毛だと隠していた。クロアチアのホテルには看護学校の友達も実際にいたのかもしれないし、子供を連れたお母さんもいたのかもしれないけど、三人称で悲劇を語り泣き崩れるハンナの気持ちを全て察したかのようなジョセフ。病院に転送される際に「ハンナ!」と叫んだシーンによって彼の心も伝わってくる・・・
ハンナのカウンセラー(ジュリー・クリスティ)の言葉でもわかるように、戦争の傷痕は受けた本人にしか伝えられない。ナチスの行った虐殺さえも風化してしまうのが現実であり、人間は悲惨な事実を忘れてしまうものなのです。語り継ぐ者が必要なのに、当の被害者は生き残ったことさえ恥だと感じるくらい心に傷を負っている。日本においても南京大虐殺の事実や慰安婦問題を消し去ろうとする勢力があるけど、戦後生まれの人間に歴史を否定されても説得力がない。かといって、被害者・加害者ともに口を閉ざしてしまっているのだから、水掛け論になるのも当然なのかもしれない。
映画では要所を子供の声のナレーションを入れていることが印象に残ります。その子の正体は謎のまま進みますが、「赤いコーデュロイパンツと青のシャツを着て・・・」とは、おそらくクロアチア国旗を指す言葉なのでしょう。また、最後には2人の子供が生まれたので役目が終わったと言ってるところから、ハンナの子供だったと推測できますが、秘密の告白を聞いてしまった後では、その子が母親を全て許している親子愛にまた泣けてしまう・・・