春の雪 : 映画評論・批評
2005年10月25日更新
2005年10月29日より日劇3ほか全国東宝系にてロードショー
三島文学の世界観を壊さず美しく、だが…
雅な雰囲気の漂う中、李屏賓のカメラがゆっくり、登場人物たちの感情をさらりとなぞっていくかのように動いていく。思い描いていた通りの三島文学の世界がスクリーンに広がる。清顕の聡子に対する歪んだ感情表現が災いとなり、やがて取り返しのつかなくなる悲劇を招く。この物語に反して李氏の美しい映像が、逆に残酷だ。
だがしかし、どうも期待し過ぎてしまったらしい。清顕と聡子の濡れ場が、李氏の代表作「花様年華」のような匂い立つような妖艶さになるかと思いきや、淡々。その情事をきっかけに、2人の感情は誰も止められない状態になり、まさに坂道を転がるように落ちていくはずなのに、どうもその激しさが物足りない。主演の2人には荷が重かったのか? その分、聡子の侍女・蓼科役の大楠道代の怪しさや、清顕の親友・本多役の高岡蒼佑の出しゃばらずに親友を見守るその距離の置き方など、脇役陣の上手さに惹きつけられたが。ついでに言えば、宇多田ヒカルのエンディング曲「Be My Last」も違和感あり。
三島作品の世界観を壊さず、美しく撮ろうとした作り手側の心意気は分かる。が、いかんせんガラスの置物をさわるかのように丁寧過ぎて、主人公たちの心の叫びがこちらまで響いてこなかった。
(中山治美)