「まごうことなき映画史に燦然と輝く傑作中の大傑作。絶対に映画好きなら一度は観てほしい作品ですね。」七人の侍 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
まごうことなき映画史に燦然と輝く傑作中の大傑作。絶対に映画好きなら一度は観てほしい作品ですね。
まごうことなき映画史に燦然と輝く傑作中の大傑作。
毎年必ず1回は観たくなりますが、今年は運よく「午前十時の映画祭15」にてなんと!新4Kリマスター版にて3週間限定上映。
グランドシネマサンシャイン池袋さんではありがたいことに19:00の上映回もあり、早速劇場へ。
場内は老若男女幅広いお客様でキャパ150席のスクリーンは満席の大盛況。
『七人の侍』(1954年/207分)
初公開は『ゴジラ』と同じ70年前の1954年。今思うと凄い映画の当たり年ですね。
制作費は当時の通常映画の7倍に匹敵するようですが、戦後わずか9年でこれほどの超大作を撮りあげた当時の映画界の勢いと熱量には敬服の念を禁じ得ません。
視覚的に印象深いのはクライマックスの豪雨の決戦シーンです。「西部劇が砂埃なら時代劇は雨だ」と、とにかく激しい豪雨の中で、今までの歌舞伎のような殺陣を廃し、時代考証に基づいた不格好で泥臭く、人を斬る効果音を使わず、刃こぼれまで表現した実にリアルで迫力のあるアクションは70年経った今でも決して色あせません。
「残る野武士があと何人か」「どのような陣形か」という説明も都度わかりやすくインサートされています。決戦のゲーム性とエンターテインメント性も非常に高いですね。
若いころはクライマックスの決戦シーンに血沸き肉踊りましたが、歳を取ると侍集めや、侍同士、または侍たちと村人の気脈が通じる前半部分に趣を感じるようになります。
とにかく橋本忍、黒澤明、小国英雄の脚本が完璧で飛び抜けていますね。七人の侍をはじめ、一人ひとりの農民に至るまで、個々の登場人物の性格や背景、思想信条が詳細に設定されていて、過度なセリフによる説明ではなく、さらりと彼らのたたずまいのみでしっかりと描かれています。
敗戦続きで歳を重ねた個性豊かな凄腕の浪人たちが、野武士から農民を守る大義のため、まるで自らの死に場所を求めるかのように島田官兵衛(演: 志村喬氏)のもとに集い、出自が農民の菊千代(演: 三船敏郎氏)の不思議な魅力に次第にチームビルディングされる過程は実に見事です。
また農民の描き方も、ただの弱者ではなく、武士の好き勝手な振る舞いのため臆病だけどずる賢く立ち回る存在に描かれているのも秀逸です。その臆病でずる賢い農民を万造(演: 藤原釜足氏)が具現化していますが、きちんとぼけた与平(演: 左卜全氏)が見事に中和しているのは上手い設定です。
最後も生き残った若侍・岡本勝四郎(演: 木村功氏)と万造の娘・志乃(演: 津島恵子氏)の恋模様も、勝四郎が農民となって志乃と夫婦になるような単純なハッピーエンドで終わらせないところは、「最後に勝ったのは百姓だ」という台詞の余韻を残す上で最適解ではないでしょうか。
逆に、敵の野武士に関しては、あまり台詞を喋らせない無個性な点も上手いですね。
個性的な侍たちは誰もが抜群に魅力的ですが、個人的には宮口精二氏が演じた痩身の剣客・久蔵がニヒルでクールで、しびれるぐらいのカッコよさです。強さのみを求道する宮本武蔵がモデルで、当初は三船敏郎氏の配役予定だったらしいのですが、急遽菊千代の役が必要になったのでスライドしたとのことですが、三船氏の久蔵でしたら、また全然違った作品になったでしょう。
特に今年にはいってAI技術が急速に進化。
映像化不可能なことはすでに一切なくなってきており、黒澤映画のようにきちんと奥の方でも誰かが演技をしている、常に雨が降っていることなど造作もなくなってきています。
最終的にはやっぱり脚本。
今まで以上にホンの面白さが映画の成否に関わってきそうです。
絶対に映画好きなら一度は観てほしい作品ですね。
共感ありがとうございます。
久々劇場で観て感じたのが、緩急の巧みさ。どう見てもエロ多めの娘に剃刀を出して来るガンギマリ父。鳥が啼くのどかな中陣地を見回る。戦い前夜の麦刈り。犠牲者は忘れたかの様な田植え、画面の明るさも色々変わって、長尺だからこそ出来る演出もあるんだなと思いました。

